「ゼニト」と呼ばれるこの陣地がもし陥落すれば、10年にわたりしぶとく抵抗を続けてきたアウジーイウカの守備隊は、ついに撤退を強いられるおそれがある。
ロシア軍部隊は22日、コンクリートの迷路のようなこの防御拠点の遮断に、かつてなく近づいた。今回は最終的に失敗したが、次は成功するかもしれない。なぜなら、ゼニトを守るウクライナ軍部隊は弾薬が枯渇しつつあるからだ。
理由は周知の通りだ。米国のジョー・バイデン大統領が今年、ウクライナ向けの兵器に費やそうとしている610億ドル(約9兆円)の予算の承認を、米議会下院のロシア寄りの共和党議員が何カ月も拒んでいるからだ。
米国の資金が充当されないため米国製の砲弾が不足しているウクライナ側の大砲は、鳴りをひそめつつある。他方、イランと北朝鮮から新たな補給を得たロシア軍の大砲は、砲声をとどろかせ続けている。
ソ連空軍がゼニトを建設したのは、近くにあった航空基地を守る防空部隊を収容するためだった。ソ連は核戦争も想定し、ゼニトはそれに耐えられるようにつくられた。それほど強固な施設なのだ。
ウクライナ軍部隊がゼニトに陣取ったのは、2014年にロシアがウクライナ東部に軍事侵攻した直後にさかのぼる。以来、ウクライナの兵士らはここにとどまり、地下トンネルの中で寝泊まりしている。ゼニトと、1.5kmほど北のアウジーイウカ市はT0505道路で結ばれている。
丘の上にあるゼニトは「(アウジーイウカ)市の防衛と市への道路を確保するために決定的に重要だ」。OSINT(オープンソース・インテリジェンス)アナリストのアンドルー・パーペチュアはそう指摘している。「ゼニトなしでどうやって防衛できるのか、わたしにはわからない」
ロシア側はゼニトの重要性を十分理解している。22日の激しい戦闘ではゼニト自体は制圧できなかったものの、孤立化させる寸前までいった。ロシア軍部隊はゼニトを東に迂回し、アウジーイウカの南郊で800mほど前進したとされる。
ロシア側の進撃によって、ゼニトへの唯一の補給線が断ち切られかねない事態になった。今回は、市中心部に配置された第110独立機械化旅団を主力とするウクライナ側の守備隊が押し返し、伝えられるところではゼニトへの圧力を和らげたという。