世界的に注目が集まっている、畏敬を意味する概念の「AWE(オー)」。なぜ、今、リーダーにとって必要な力になりうるのか。その重要性と共に聞いた。
「畏敬」を意味する「Awe(オー)」という概念が、これからのリーダーやビジネスパーソンにとって重要になる。そう提言するのは、『Awe: The Transformative Power of Everyday Wonder』(ダッカー・ケルトナー著、日本語版は2024年夏、ダイヤモンド社より刊行予定)の翻訳を行う、華道家・山崎繭加、産業僧・松本紹圭だ。
──「Awe」とはどのような概念か。
山崎繭加(以下、山崎):『Awe』のなかでは、「個人が自身の理解を超えた強力な刺激に出合ったときの感情の経験」と定義されています。絶景や建物、音楽、アート、宗教的経験などに触れたとき、また出産やすさまじい破壊などの大きな体験をしたときに生まれる、とらえようのない感情を指します。書籍では、壮大な体験のみならず、道端に咲く花を見て心が揺れ動くような日常的な感情も「Awe」だとされています。
著者のダッカー・ケルトナーはカリフォルニア大学バークレー校の教授(心理学)で、Awe研究の第一人者。2003年に同研究に関する論文を発表し、Aweの感情としての特徴を定義づけました。
Aweの表出する場面では「広大さの知覚」と「『現在の自分の精神構造ではその経験を理解することができない』という受容の必要性」が常に存在し、さらに脅威、美しさ、卓越した能力、美徳、超自然という5つの評価軸が示されています。それまでもAweの存在は宗教やアートの世界で認識されていたものの、同論文の発表を契機に科学としての研究が進むこととなりました。
「スモール・セルフ・エフェクト」の視点
──リーダーには「Awe」のどのような点が重要か。松本紹圭(以下、松本):現在の不透明な環境下では、「先行きがわからない状態でいかにリーダーシップを発揮するか」が問われるようになりました。イノベーションも、過去からの成果の積み上げによって起きるものではありません。だからこそ、ネガティブ・ケイパビリティ(解なき事態に耐え抜く力)やパラドキシカル・リーダーシップというキーワードにもありますが、「わからない状態に身を投じる姿勢」がリーダーのスキルとして求められています。Aweは、そこへ密接に関連してくると考えています。