安価なボールペンで書かれた文字は、自社が手掛ける万年筆で書いたものより劣ると思いながらも、ビックはボールペンに魅力を感じていた。そしてこのとき、ビックは一輪車が土の上に残した跡から、あることに気がついた。
その車輪と同じように、ボールペンは引っ掻くことではなく、転がるものによって、跡を残しているのだ──このときビックは、より滑らかな、書きやすいペンを作ることができるはずだと思いついた。
それから2年後、ボールペンの特許権を買い取ったビックは、改良したボールペン、「BIC」を発売した。以来、同社は世界中で1000億本以上のボールペンを販売している。
ボールペンは「画材」に
BICのボールペンは、文字を書くという実用的な目的のためだけではなく、「絵を描くための道具」として、多くのアーティストたちに使用されている。初期のボールペン・アートで知られるのは、アルゼンチン生まれのイタリア人画家、ルーチョ・フォンタナだ。ナチス・ドイツの迫害を逃れるため、同じアルゼンチンに亡命していたハンガリー人、ラースロー・ビーローが開発、自身の名にちなんだ商品名で発売していたペンを使い、作品を仕上げた。
その後、フォンタナは1961年にも、BICが発売したペンを使い、座る裸婦の姿を描いた「Nudo Femminile Seduto」を発表。後には、ベルギーのヤン・ファーブルなどその他のアーティストたちも、ボールペンを画材とした作品を完成させている。
オンラインで「BICアート」を紹介
BICは2016年、パリ・セルジー国立高等美術学校とともに、現代アートをたたえる賞を創設。2018年にはパリで、世界中のアーティストたちがBICのペンで描いた作品を展示する「La Collection Bic」を開催した。2023年4月には「BIC Art & Creativity」のグローバル・ブランドマネージャー、アリックス・デュフォーが、インスタグラムにボールペン・アートを紹介するためのアカウント、BIC.Createを開設した。