不老長寿を研究するスタートアップに特化して投資する「Longevity Fund(長寿ファンド)」も存在する。最近では、Open AIのCEOであるサム・アルトマンが、「ヒトの寿命をあと10年伸ばす」をミッションとするRetro Biosciencesに1億8000万ドルの出資をしたことも話題となった。
日本発の不老長寿スタートアップも誕生
ひと言に不老長寿といっても、それに至るアプローチはさまざまで、英「ネイチャー」誌が提示しているのは次の4つだ。1. 血液交換 血液中に含まれる病因物質を除去して、健康な血液に入れ替える
2. 代謝のコントロール カロリーを制限する物質をサプリメントや薬から摂取する(カロリー制限は老化を防ぎ、寿命を伸ばすことが証明されている)
3. 老化細胞の除去 炎症物質などを出す老化細胞をサプリメントや薬で除去する
4. 細胞のリプログラミング 薬によって細胞組織を胎児のような状態に戻す
不老長寿の研究をするスタートアップは、以上の4つの方向から製品開発に取り組んでおり、海外ではすでに上場を果たした企業もある。しかし創薬においてはまだ実用化に至った例はない。
そうした世界での動きのなか、日本からも不老長寿の創薬に挑むスタートアップが誕生した。遺伝子検査などを手がける「ジーンクエスト」創業者の高橋祥子が設立した「TAZ(タズ)」だ。
タズは「代謝のコントロール」と「老化細胞の除去」というアプローチで不老長寿の実現を目指している。
健康な状態の人には、老化の「予防」として代謝をコントロールするサプリメントを医療機関を介して販売し、まだ治療薬が存在しない加齢性の疾患にかかった患者に向けては、老化細胞を除去する薬の開発を目指す。
高橋は日本における不老長寿研究の現状については次のように語る。
「日本では米国と比較して老化関連の科学研究費が少ないため、不老長寿に関する研究や起業が進んでいません。しかし、膨張する医療費を抑えていくのはこの国の喫緊の課題です。健康寿命を伸ばして病院へかかる必要がない状況を科学的な手法でつくっていきたい」
「10年若返らせたら賞金1億ドル」コンテストに参加
タズは日本発の不老長寿研究のスタートアップとして存在感を高めていくため、米国で開催される予定のあるコンテストに参加することを表明している。月面探査コンテストなどで知られるXプライズ財団による「米国の高齢者の認知や筋肉などを10年若返らせたら賞金1億ドル」というコンテストだ。まだ開催時期など詳細は発表されていないが、1億ドルを獲得できれば、タズが治験を進めていくうえでも有利になる。
高橋は不老長寿薬の実現の可能性について次のように考えているという。
「不死の生物は存在しないのですが、実はカメやハダカデバネズミといった老化しない生物は山ほど存在します。元気なまま生涯をまっとうできるというのは、人間でもできるのではないかと考えています」