フカヒレ漁規制、サメ保護の取り組みに逆効果も

メキシコの太平洋岸で、サメのヒレを切り取る漁師(Mark Conlin/VW PICS/UIG via Getty Image)

生きたサメからヒレだけを切り取り、残りは海に捨てるフカヒレ漁「フィニング」は、持続不可能な漁業の中でも「札付き」の代表格といえる。残酷なだけでなく、統計的には魚体の約95%が使われないため無駄も多い。無数のドキュメンタリー番組がこの漁法を掘り下げ、レポーターが潜入取材で問題点を紹介し、反対運動には何十万筆もの署名が集まった。各国政府もこれに呼応し、フィニングを禁止した。

表面的には、こうした取り組みは成功しているように見える。しかし、不穏なパラドックスが立ちはだかっている。フィニング禁止が進んだことで、意図せずして全体的なサメの死亡率が増加している可能性があるのだ。

科学誌サイエンスに掲載された論文は、2012~19年に世界150カ国の国内水域と公海で漁獲されたサメに関するデータを分析し、フィニング禁止の効果に疑問を呈している。この研究の共著者で、米自然保護団体ザ・ネイチャー・コンサーバンシーの科学者であるダーシー・ブラッドリーは、「サメの乱獲を抑制する数々の規制にもかかわらず、毎年漁業が原因で死ぬサメの総数は減っていない。むしろ、少しずつ増えている」と指摘する。

だが、なぜだろうか。

研究の対象となった7年間で、フィニングを禁止する規制は世界で10倍に増えた。ブラジル、台湾、ベネズエラなど、サメの丸ごと水揚げを漁業者に義務づけることでフィニングを規制した国もあれば、フィジーのようにサメ漁の全面禁止に踏み込んだ国もある。ところが、こうした規制努力をよそに、同期間に沿岸漁業によるサメの死亡率は推定4%増加したことが研究で明らかになった。年間約7600~8000万匹のサメが漁業が原因で死に、そのうち95%が国内水域で死んだことになる。

「フィニングを防ぐ規制の普及で、無駄の多い漁業慣行への対処には成功したが、全体的な(サメの)死亡率を減らすことはできなかった」と、カナダ・ノバスコシア州にあるダルハウジー大学の研究者で論文の主執筆者であるボリス・ワームは語っている。
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翻訳・編集=荻原藤緒

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