アート

2024.01.23 16:30

「画家と名乗っていいんだ」 アナウンサーから転身、伊東楓の現在地

画家・伊東楓


「画家と名乗って良いんだ」と思えたユニクロコラボ

——2021年1月にTBSを退社し絵本作家に転身することを発表されました。何が決断のきっかけになりましたか。
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入社3年目のときに、アシスタントを務めていた番組『中居くん決めて!』の中で、即興で似顔絵を描くことになりました。そのあとで「もう1回絵を趣味でちゃんと描けるようにしよう」と思い、絵の練習を始めて。

そうしているうちに「私、代弁者じゃなくて表現者になりたいんだ」と気づき、新しいステップに進むことを決心しました。辞めることへの不安はまったくなくて、「もし絵で挑戦して無理だったら、もう1回どこかの中途採用試験を受けよう」という気持ちで一歩踏み出しました。

——2021年3月に絵詩集「唯一の月」(光文社)を出版した後、拠点をドイツに移しました。その理由は?
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とにかく環境を変えたいと思って。私はどうやら逆境のときに反骨精神で絵が描けるタイプのようです。TBS退社後に絵詩集を出したときは、アナウンサーという殻から「飛び出したい!」という想いで描きました。

ただ、その後は自由でノンストレスになっちゃったので、何を描いたらいいかわかんなくなって。それで焦ってすぐドイツへ行きました。

行き先にドイツを選んだのは直感です。どうせ行くなら行ったことのない、何の縁もない、言葉も喋れない国がいいなと。セカンドキャリアを始めるならゼロベースで始めたい、と思ったんです。

ただ、渡航してみると、定期収入のない外国人なので、住む場所を見つけるまでは本当に地獄でした。トラブルが多すぎて、絶望して帰国しようと思ったことも何度もあります。その時期に描いたトラの絵にはとても思い入れがあります。今回の個展でも展示していますが、周囲の人からの評価も高いです。

——ドイツでの生活を通して、アナウンサーから画家へと成長されるなかで、どのような心情の変化がありましたか。

私の絵は独学ですし、自分が好きなものしか描いてきませんでした。だから、最初の頃は自分が「画家」と名乗っていいのかわからなかったんです。

2021年、絵詩集を発売した時に原画展を開催したのですが、その時、41点の原画が即完売しました。本当にありがたいし嬉しかったけれど、“元アナウンサー”という下駄を履いているという自覚もありました。画家としての私、あるいは純粋に作品だけを好きで買ってくれた人が、あのときどれぐらいいたのかな……と。

そのコンプレックスを払拭できたのが、2023年1月にユニクロとのコラボが実現したことです。きっかけは、私が自らユニクロのドイツ法人へ企画を持ち込んだこと。ドイツのスタッフの方々は、私の日本での知名度なんて知らないので、バックグラウンドには何の価値もない。そんな方々に原画を見てもらい、評価をいただけてコラボが決まりました。

コラボしたTシャツやバッグはベストセラーになり、発売期間も2カ月延長に。そこでやっと「私は画家と名乗っていいんだ、絵を描くことを職業として誇りを持っていいんだ」と思えるようになりました。
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文=堤美佳子 取材・編集=田中友梨 撮影=山田大輔

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