ソーシャルメディアの象徴的存在は40歳を目前に、新たな局面を迎えている。人間の暮らしの──そして彼のレガシーの未来への、大きな賭けだ。
「ザ・アクアリウム(水族館)」と呼ばれるガラス張りの会議室に腰を下ろしたマーク・ザッカーバーグ。費用便益分析しているのは、2023年の彼をニュースのヘッドラインへと押し上げた話題、総合格闘技(Mixed Martial Arts)だ。
あきらかに実現しなそうなイーロン・マスクとのケージマッチ(「たぶん彼はやらないんじゃないかな」)が、ザッカーバーグを時代のまんなかに押し戻した。なんともばかげた話ではあるが、実はビジネスの目的にもかなっている。キャリアを通して、彼は素晴らしい業績の数々を、判断の誤りや民主主義を揺るがすスキャンダルによって台無しにしてきた。だから、このマスクとのいがみ合いにはうまみがあった。気難しい悪役のテスラCEOと戦うヒーローを演じて、フェイスブックの元「お子様CEO」が立派なメタの指導者へと進化したことを示す、またとない機会なのだ。
「運命を決めるのは相手じゃない」と彼は言う。「自分がどう実行するかだ」。
時宜にかなった考察だ。ザッカーバーグは2024年5月に40歳になる。推定1060億ドルの資産(編集部注・原文記事が執筆された2023年9月現在の数字。2024年1月現在は推定1220億ドルでForbes世界長者番付5位)をもち、効果が最大になるよう設計された慈善事業に乗り出し、そして支配権をほぼ完全に握っている世界屈指の会社を変貌させようとしている。
彼の友人で同世代のスポティファイ創業者ダニエル・エクは、現局面までの筋書きを以下のように描写する。
まず最初に、〈『ソーシャル・ネットワーク』のマーク〉がいた。2010年の映画で描かれたような、傲慢で不誠実な天才としてのフェイスブック創業者だ。次に、〈ケンブリッジ・アナリティカのマーク〉、あるいは、〈邪悪なマーク〉がいた。同社のデータ悪用スキャンダルを指している。
そして、今日のマークに至る。「人前で見せる姿が、だいぶ本人らしくなった」とエクは言い、3段階のマークは世間の印象を反映したものであって、彼自身の見解ではないと強調する。「彼はこの数年でずいぶん学んで、新しい情熱を燃やしている。責任ある振る舞いをしなければならないと気づいたんだ。なにしろ、こんな巨大プラットフォームを握っているんだから。でも、昔のマークもまだ少し残っていて、みんなが『こんなのうまく行かない』と言っても、賭けに出ている」。とりわけ、夢はあるが成功の保証はない、メタバースと呼ばれる仮想世界への1000億ドルに及びそうな投資だ。今後7年は利益を生まないとみられ、その後もどうなるかわからない。