時計

2024.02.08 14:45

家族経営でスイス時計に旋風を起こす 現在進行形の時計ブランド「ノルケイン」

活況を呈する高級時計業界。しかし、インフレや為替の関係もあって、価格帯は上昇する一方であり、ユーザーにとっては買いにくい状況になりつつあるのも事実だ。

そんななかで、2018年に創業した新進気鋭の時計ブランド「ノルケイン」が注目され始めている。家族経営の小さな会社だが、スイス時計の伝統に対する熱意は本物。その思いをCEOであるベン・カッファーと、バイスプレジデントを務める実弟のトビアス・カッファーに聞いた。


スイス時計協会FHが発表しているスイス時計の輸出統計を見ると、2000年から2022年までで、輸出額は約2.5倍に膨れ上がっている。しかも2023年は約4兆円を超える過去最高の輸出額になる見込みだ。しかしその一方で、輸出本数自体は半減している。つまりスイス時計は高価格化が進行しており、それがしっかり売れているということになる。

活況を呈するスイス時計業界だが、リシュモングループ、LVMHグループ、スウォッチグループという3つのコングロマリットの勢力も強く、また数百年の歴史を持つ老舗ブランドが多いため、ドラスティックな改革が生まれにくいという指摘もある。またインフレやスイスフラン高の影響で時計価格が急騰しており、時計ブランドの大物経営者の「今がピークではないか」という発言が、大きなニュースにもなっている。

スイス時計の未来はどうなるのだろうか?

そんな混迷の時代を前にして、若きCEOが立ち上げた時計ブランド「ノルケイン」が脚光を浴びている。

スイス時計の伝統を重視し、ミドルレンジにこだわる。



ノルケインの時計に対して、まず驚かされるのが価格帯だ。スイスフラン高の影響もあって、どのスイス時計ブランドも値上がり傾向にあるが、そんな状況下で30から60万円台を中心とするというノルケインは、かなり異色な存在となっている。
「時計産業はスイスの独自の産業であり、文化でもあります。だからこそフェアプライスな時計を、より多くの方に伝えていきたい。それは我々の使命だと思っています」と語るノルケインCEOのベン・カッファー。

彼は時計製造会社の一家に生まれ、ブライトリングを経て2018年に「ノルケイン」を立ち上げた。それは彼がまだ30歳の時だ。

「時計ビジネスをスタートさせるにあたっては、方向性や戦略、ビジョンをしっかり考えました。特に重要なポイントが3つあります。まずは“ブランド”。全くゼロから新しいブランドを立ち上げるのか、それとも休眠しているブランドを再生させるのか。次のポイントは“価格帯”。限られた数量を高価な価格で販売する戦略もあるし、多くの人々が購入できる価格帯にするという方法もあります。そして“販売方法”。伝統的な時計専門店とともに価値を伝えていくのか、もしくはeコマースで完結するのか。

この3つの判断に迫られました。飽和状態に近い時計業界でブランドを一から立ち上げることは、当然かなりハードルが高く、みんなからは止めておけといわれました。またプロダクションプロセスをきちっと作って、品質と価格をコントロールしながら多くの本数をつくっていくことも難しい。販売方法もeコマースの方がやりやすいけど、伝統的な時計専門店と組んで、しっかりと時計の良さを伝えていくことにしました。さまざまな角度から検証しましたが、我々の使命の為には一番難しいやり方を選ぶしかなかったのです」

偉大なるメンターたちとの出会い

あえて荒波の中に飛び込んだノルケインだったが、思わぬところに援軍がいた。ブランパンを再興し、オメガの業績をV字回復させ、ウブロをビッグブランドに育て上げ、LVMHグループの時計部門のトップを務めた経営者、ジャン-クロード・ビバーである。共通の知り合いを通じて2020年に交流をはじめ、今ではノルケインの取締役会の顧問を務めている。またブライトリングの副社長を経て、ムーブメント会社ケニッシの役員を務めたジャン-ポール・ジラルダンは、ノルケインがケニッシ製の高性能ムーブメントを搭載するための橋渡ししてくれた人物だ。

「ビバーさんから学んだのは、パッション、パッション、パッション(笑)。とにかく情熱をもって進んでいくことの大切さであり、イノベーティブであり続けることです。ジラルダンさんからは、クオリティをどうやって高めていくかという部分をアドバイスしてもらいました。私は1988年生まれですし、ノルケインのスタッフの平均年齢は35歳とかなり若い。ですからこういった偉大な先輩からのサポートはとてもありがたいことです」

もちろん誰もがこういった恩恵を受けることはできない。ノルケインとベン・カッファーは、スイス時計文化を守っていきたいという思いがあった。だからこそ、その思いを同じくする重鎮たちの心を動かしたのだ。
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