組織において着実に実績を積み上げ、業界のリーダーとして活躍する女性に贈られる賞「イニシアティブ賞」には、イオン執行役副社長でイオントップバリュ代表取締役社長を務める土谷美津子が選ばれた。
土谷は、初の女性管理職として社内の扉を開け続け、イオンのプライベートブランド「トップバリュ」の開発トップとして1兆円規模の過去最高売り上げを叩き出す。その道のりを支えてきた存在とは。
「イオンには人材がいないのですか」
2013年に土谷美津子が商品企画本部長に就任すると、業界ではこんな心配の声が上がったという。当時は同業他社を含め、食品の仕入れを担当するのは男性ばかりだったからだ。
「そんな環境も、この10年でだいぶ変わってきましたね」
イオントップバリュの社長となった土谷は、そう振り返る。
高知大学で水産を学んだ土谷がイオンの前身であるジャスコに入社したのは1986年、男女雇用機会均等法施行の初年度だった。大卒の女子学生の就職先は限られており、女性でも採用してくれるらしいと聞いて入社試験を受けた唯一の会社が、ジャスコだった。
「女性が多い職場でしたが、それでも性別による仕事の分担はあった。決まっていたわけではないけれど、私のいた店舗では、レジは女性、食品は男性というような空気感が何となく漂っていました」
ジャスコの家庭用品売り場からキャリアをスタートさせた土谷。とにかく店舗の売り場が好きだったと話す。
「みんなで試行錯誤しながら良い売り場をつくり上げていくのが楽しかったし、お客様が喜んでくださる顔を見られるのも嬉しかった。教育担当や、人事・総務などバックオフィスの部門に配属されたこともあったのですが、その間ももう一度売り場に戻りたいという気持ちは伝え続けていました」
20代後半になり、課長代行として姫路の大規模な新店の開設を任されることになった。上司だった販売課長は「社内の資格として考えると“ 降格 ” 扱いに映るかもしれないが」と前置きをしたうえで、土谷にこう言った。「売り場をやらないか」。
当時、女性社員はどれほどキャリアを積んでも、食品売り場など最前線の仕事はほとんど担当させてもらえていなかった。そのため、昇進していざ店舗を仕切る立場になっても経験値不足でうまくいかず、「やっぱり女性には無理だ」との評価が下る結果となっていた。それは理不尽ではないのか──。そう感じていた上司は「このままだと便利屋で終わってしまうかもしれないから」と、土谷にも男性社員と同じ売り場の経験をさせようとしてくれたのだ。
「『社内から反発もあるかもしれないが、自分が壁になるから』と言ってくれて。期待を寄せてもらえたことがうれしかった」
こうして売り場に戻り、デリカなど食品売り場で経験を積んだことが、のちに店長になった際にも大きく生きたという。