WOMEN

2024.02.13

「パナソニックでいいの? と聞かれたけれど」女性発イノベーションの旗手・松岡陽子が日本企業を選んだ理由

松岡陽子(パナソニック ホールディングス執行役員、Yohana 創業者兼 CEO)

2023年10月31日に開催されたForbes JAPAN「WOMEN AWARD」。個人部門では、女性の新たな生き方や価値観を世に示し、 企業や社会に新しい風をもたらした各界のパイオニアが受賞した。

組織や社会全体のしあわせと成長の実現に貢献した女性に贈られる賞「インクルージョン賞」には、パナソニック ホールディングスの執行役員で、同社の子会社Yohanaの創業者兼CEOを務める松岡陽子が選ばれた。「ヨーキー松岡」の愛称で知られる松岡は、競争の激しい米国テックの世界で、4人の育児をしながらキャリアを切り拓いてきた。

その経験を引っ提げ、彼女は今、日本で人々の暮らしに新たな変革の波を起こそうとしている。


「あなたが初めてですよ」

米国でロボット工学と神経科学の研究者の道を歩み、ビジネスリーダーに転じてAppleやGoogleの要職を経てきた松岡陽子は、職場で妊娠を報告するたびにそう言われ、つらい思いをしてきた。

2023年、ノーベル経済学賞を米ハーバード大学のクラウディア・ゴールディン教授が受賞したことで、男女間賃金格差や「チャイルドペナルティ」の問題が日本でも注目を集めた。実力主義の米社会で生きてきた松岡には無縁の話かと思いきや「私自身、どの仕事においても直面してきた」と語気を強めた。

最初は、米カーネギー大学で教鞭を執っていたとき。双子を授かったが、所属学部で妊娠した女性教授は松岡が初めてで、産休・育休は存在すらせず「私がつくりましょう」と自ら制度設計に動いた。シリコンバレーのスタートアップ勤務時代は、休みもろくに取れない厳しい労働環境のなか第4子が誕生、生後8日で職場復帰。ベビーシッターが見つからず、新生児を抱っこしながらオフィスで仕事を続けた。

「女性が子育てをしながら昇進するのは本当に難しい。日本だけでなくアメリカでも、キャリアのために子どもを産まなかったり結婚をしなかったという人は、私の世代にはたくさんいる。その選択に幸せを感じている人もいるけれど、本当は結婚や出産をしたかったのに諦めたという人も少なくありません」と指摘する。

賃金格差の問題も、Google元従業員が集団訴訟を起こしたことで女性差別が認められた。補償の対象であった松岡にも、2年前に和解金が支払われたという。

松岡は、中学卒業後プロテニスプレイヤーを目指して渡米。怪我でその夢は断念したが、一緒にテニスをする“テニスバディ”をつくりたいとロボット研究者の道へ。ロボットづくりに情熱を燃やすうちに、テクノロジーで人を助けられると気づく。パッションはミッションに変わり、キャリアの軸となった。

「人々が“なりたい自分”になれるようにサポートすることが私の使命」と語る。経験は知見となって次のステージへとつながり、多くの転職を経て無ニのキャリアを積み上げてきた。
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文=督あかり

この記事は 「Forbes JAPAN 2024年2月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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