撃沈は襲撃から数週間たってウクライナのパルチザンによって確認され、衛星画像でも裏づけられた。冷戦時代にさかのぼる古い哨戒艇であるタラントゥルは、ウクライナ軍が運用不能にした黒海艦隊艦艇の長いリストに新たに追加された。
ロシアがウクライナで拡大して23カ月になる戦争の激しい戦闘で、黒海艦隊はウクライナ軍の無人艇やドローン(無人機)、地上発射ロケット、空中発射ミサイルによって、巡洋艦1隻、大型揚陸艦4隻、潜水艦1隻、補給艦1隻、コルベット艦や哨戒艇、揚陸艇数隻などを失っている。
損失は、戦争拡大前に黒海艦隊が保有していた艦艇のおよそ5分の1に及ぶ。
しかも、沈没した大型艦は補充できない。黒海への唯一の入り口であるボスポラス海峡はトルコが管理し、慣例として戦時中は外国の軍艦通過を認めないからだ。
いずれにせよ、黒海艦隊が補強しようとする場合は、ロシア海軍のほかの地域艦隊から艦艇を回してもらう必要があるだろう。ロシアの艦艇建造産業はソ連崩壊後の1990年代に凋落し、今日にいたるまで回復していない。
世界の主要な海軍の大半は、保有する艦艇の総トン数という重要な指標に基づくと着実に拡大しているが、世界3位の規模をもつロシア海軍は縮小を免れるのがやっとの状態だ。
ロシア海軍が保有する艦艇の2023年末時点の総トン数は215万2000トン(米海軍のおよそ3分の1)で、前年比の増加は6300トンにとどまった。フリゲート艦やコルベット艦、掃海艇、潜水艦艇の新造によって1万7700トン増やすはずだったが、ウクライナ側の攻撃によって黒海艦隊の艦艇を1万1400トン失った結果だ。
タラントゥル分を含めれば、失ったトン数はさらに200トンほど膨らむ。
黒海艦隊にとってとりわけ屈辱的なのは、戦争拡大前の時点で大型艦がたった1隻しかなかったウクライナ海軍との海戦に負けていることだ。
ウクライナ海軍はこの大型艦(フリゲート艦「ヘチマン・サハイダチニー」)も、2022年2月にロシアの全面侵攻が始まった直後に自沈させている。こうしてウクライナ海軍は、空軍や地上軍(陸軍)の大きな支援を受けつつドローンやミサイルで戦う新しいタイプの海軍になった。
ドローンやミサイルは有効でもある。ウクライナ側は昨年後半、黒海艦隊に対する攻撃を強化し、たいていは空中発射ミサイルによって揚陸艦2隻、潜水艦1隻、コルベット艦1隻、退役した掃海艇1隻を破壊した。タラントゥルに対する無人艇攻撃は、3カ月にわたる激しい対艦作戦のハイライトだった。
この作戦はロシア側の後退で終わった。黒海艦隊はクリミアからだけでなく、ロシア南部のノボロシスクからも大半の艦艇を引き揚げた。
ウクライナ側は黒海艦隊の2割を破壊し、残りをさらに東へと追いやることで、黒海西部の支配権を取り戻し、そこを南北に通るきわめて重要な穀物輸送回廊を確保した。
とはいえ、それで終わらせるつもりはない。ウクライナ海軍のオレクシー・ネイジュパパ司令官(海軍中将)は執務室の壁に、黒海艦隊の全艦艇の一覧を掲示している。
ウクライナ軍が艦艇を沈めるたびに、ネイジュパパはその艦艇の絵柄を赤く塗りつぶす。「いずれ、ここにあるすべてが赤く染まることでしょう」と地元メディアのウクラインスカ・プラウダに最近語っている。
(forbes.com 原文)