2008年、経済協力開発機構(OECD)は金融経済教育についての情報共有や分析などを行う組織として「金融教育に関する国際ネットワーク(International Network on Fi-nancial Education:INFE)」を組織した。INFEは08年の米国大手投資銀行の破綻から起きた世界金融危機の深刻な影響を教訓として、 12年に「金融教育のための国家戦略に関するハイレベル原則」を作成。そのなかで「金融リテラシー」を下記のように定義している。
「金融に関する健全な意思決定を行い、究極的には金融面での個人の幸福(well-being)を達成するために必要な金融に関する意識、 知識、技術、態度および行動の総体」
日本の金融リテラシーを上げるプラットフォームが誕生
また、INFEの「ハイレベル原則」は、08年の金融危機について「金融リテラシーの低さが社会全体、金融市場および家計にもたらす潜在的なコストと負の拡散効果を顕らかにした」と述べている。さらには、「金融危機後、金融リテラシーは大多数の国で個人の重要な生活技術として、より強く認識されるようになった」とも述べている。ここで、良識ある人間であれば、一つの疑問が浮かんでくる。
「金融リテラシーは、日本において個人の重要な生活技術として本当に強く認識されているのだろうか?」という焦りや慚愧(ざんき)の念にも似た疑問である。
このような疑問を疑問のままで放っておかず、「自らの使命」と強く認識して態度と行動を尽くそうとしているのが、ヴァスト・キュルチュールの共同創業者であり、代表取締役Co-CEOを務めている安東宏典だ。
「金融商品の適切な選択・管理は、正しい『金融知識』と鍛えられた『金融能力(知識を活用する力)』によってもたらされます。しかし、そのような知識と能力は、一朝一夕で身につくものではありません。私たちのようなプライベートバンカーの存在意義もそこにあると言えるでしょう」
安東は、スイスに本店を構えるプライベートバンクで富裕層に対するウェルス・マネジメント業務(資産の運用や財産の管理・保全・承継など)の経験を積んだのち、ヴァスト・キュルチュールを共同創業した。独立系プライベートバンク/ウェルス・マネジメントファームのヴィジョン(目指す世界観)として、「お金で困る人がいない世界」を掲げている。
「先進国のなかでも日本は金融リテラシーが低い状況にあります。残念ながら、これは間違いないことです。金融リテラシーの低さがもたらす負の連鎖について、一般の方々はもちろん、士業の方々にも危機感をもっていただきたいと私たちは考えています。日本においては税理士や会計士といった監査や税務のプロフェッショナルであっても、金融商品やサービスについての知識はまだまだ薄いという状況があります。それは、どうしてか——。学びの場がないからです。ヴァスト・キュルチュールは『日本における金融リテラシーの向上』を目的として、効果的な学びのプラットフォームを立ち上げています」
そのプラットフォームこそが「日本PB協会」だ。(*PBはプライベートバンクを意味している)。
「士業の方々は、保険やM&Aについては学ぶ機会があり、相当の知識をおもちです。しかし、金融のなかでも私たちが扱っているような『有価証券』については、学びを経ていない方が多いようです。以前から私は士業の方々200〜300人と仕事をしてきたなかで、独自にヒアリングを重ねてきました。やはり、『学ぶ機会の不在により、プライベートバンクの領域には足を踏み入れてこなかった』というのが実情のようです」
ヴァスト・キュルチュールのウェルス・マネジメント本部でクライアントアドバイザーを務める田坂雄基が言葉をつなぐ。
「その深層にあるのは『プライベートバンクの領域に入りたい』という意識の欠如ではないでしょうか。私たちは、豊富な金融リテラシーを『士業としての新たな付加価値』に据えていただきたいと考えているのです。そこに早く気づいていただきたいと思います。税務と金融は密接な関係にあります。深い金融の知識があれば、より戦略的なコンサルティングを行うことができるのです」
「日本PB協会」での学びのスタイルについて、安東が語る。
「座学的・教科書的な『株式や債券に関する勉強』も行っていきますが、重視しているのは『プライベートバンク領域の実学』です。プライベートバンクの富裕層のお客様が抱えている悩みの基礎的なところから、実学としてのケーススタディを記事や動画で解説していきます。わかりやすいケーススタディによって、お客様の悩みのポイントと解決方法を学ぶことができます」
実務・実用に重きを置きながら、オンラインだけでなく「オフライン=人のつながり」も重視していくと田坂が言う。
「士業の方々とヴァスト・キュルチュールのバンカーがしっかりとコミュニケーションをとり、動画の疑問点などを直接解消していきます。もちろん、個別の勉強会なども行いつつ、士業の方々からの『こういう悩み、お声をお客様から拾ったけれど、プライベートバンク領域で解決できたり、示唆があったり、何かアイデアはあるか』というアプローチに対応していきます。もしくは、こちらから積極的に働きかけていきます。事務所が位置するエリアごとの支部会・例会なども開催して、情報を交換しながら、さまざまな意見をすくい上げることにも務めます」
これから先、「金融リテラシーを高めたい」という想いでつながった「プライベートバンク」と「税理士および会計事務所」は、一つの共創コミュニティとして団結して、日本のウェルス・マネジメントを一段階も二段階も高いレベルへと引き上げていく。
顧客満足度と新しい収益を生み出す枠組みとして期待
「プライベートバンク」と「税理士および会計事務所」がお互いの機能を補完し合うことの意義は大きい。「プライベートバンク領域の実学」を自身の仕事に生かすべく、すでに「日本PB協会」にジョインしている士業の面々からも話を聞いた。決算や申告の代行から相続、事業承継、財務・人事、DXなど企業における経営課題解決のための総合コンサルティングサービスをワンストップで対応するひかり税理士法人の谷淳司。彼は1989年から税理士としてのキャリアを積んできた。
「税理士業界では税との親和性が高い保険を勧めることはあっても、『投資リスクのある金融商品をお客様に勧めるのはご法度』という考え方が長年にわたってありました。そのため、金融商品について自身で積極的に学ぶことが後回しになってきたというのが実情です。しかし、最近では『日本人が(外国と比べて相対的に)豊かではなくなったな』と感じることが多くなってきました。これから先、事務所として金融リテラシーを上げていくことで、お客様に何かしらの意義あるアドバイスをしていきたい。そう強く決意しています」
税理士法人タクトコンサルティングに務める公認会計士・税理士の高木真哉も、「日本PB協会」を活用したいと考えている一人だ。彼は資産税コンサルティングのプロフェッショナルとして、個人の富裕層の方の相続・譲渡や贈与などのテーマをはじめ、法人の事業承継、組織再編、M&Aといった個人・法人の資産税に関わる仕事を手がけている。
「いわゆる富裕層に相続や事業承継を提案し、コンサルティングしていくのが私の仕事です。これまでに『こういう金融商品を勧められたけど、どう思いますか?』といったように、セカンドオピニオンを求められることはありました。しかし、そうした問いに万全な答えを返せないでいました。銀行や証券会社におかしな商品を売りつけられてしまうことからお客様を守りたい——。これが私の願いです。『日本PB協会』での学びが『私』と『私のお客様』にポジティブ・チェンジをもたらしてくれることは間違いありません。これからは、積年の願いを現実のものにしていきます」
不動産鑑定士の住江悠が所属するフジ相続税理士法人は、不動産に強い相続専門税理士と相続に強い不動産鑑定士がタッグを組むことにより、「相続×不動産」の案件を手がけている。
「日本の地主の方はより金融を遠くに感じており、金融商品、もっと言うと金融業界に対してアレルギーのある方がいらっしゃいます。たとえ優れた商品があったとしても、そもそも信用していない——。そうした事象が起きていました。すなわち、これまではお客様から金融の知識を求められる機会が少なく、自分もプライベートバンク領域の実学をしっかりと修めてこなかったという背景がありました。そのようなある種の負の連鎖を断ち切ってくれるのが、『日本PB協会』だと思っています。実は過去にも、あるお客様をヴァスト・キュルチュールの安東さんにご紹介したときに、安東さんからウェルス・マネジメントのご提案をしていただき、すごくいい結果につながったことがありました。おかげ様で、そのお客様とは現在もいいお付き合いをさせていただいています」
ウェルス・マネジメントの「いい結果」は当然ながら、士業とお客様の「いい関係性」につながっていく。今、税理士や会計士、不動産鑑定士といった士業のサービスラインナップに「プライベートバンク仕込みのウェルス・マネジメント」を加えることができる時代が訪れている。顧客満足度向上の切り札として、あるいは新しい収益の呼び水として、「日本PB協会」は確かに機能していくに違いない。
また、「日本PB協会」が日本の金融リテラシーを上げていくエコシステムとして回り始めたとき、日本の金融ウェルビーイングも上がり始めるに違いない。
日本PB協会
https://www.pb-association.com/
ヴァスト・キュルチュール
https://www.vasteculture.com/
安東宏典◎ヴァスト・キュルチュール 代表取締役Co-CEO。1986年、岡山県生まれ。京都産業大学卒業後、トマト銀行、岡三証券、三井住友銀行を経てUBS銀行・UBS証券にて活躍した後、2022年2月にヴァスト・キュルチュールの代表取締役Co-CEOに就任。成長戦略、執行、運営責任者を担う。UBS証券においてCAオブザイヤー、楽天証券においてアセットグロース賞(個人部門)で1位となった経歴も有する。
田坂雄基◎ヴァスト・キュルチュール ウェルス・マネジメント本部 クライアントアドバイザー。1994年、京都府生まれ。関西大学卒業後、日系金融機関にてウェルス・マネジメント業務に従事した後、2022年11月にヴァスト・キュルチュールにジョインし、多数の資産家を担当。また、士業との共創関係を深める推進役を務め、若手プライベートバンカーの筆頭として活躍。
谷 淳司◎ひかり税理士法人 ひかり戦略パートナーズ 代表取締役。お客様の課題に寄り添い、「永続的な発展と財産の保全」のお役に立てることをモットーにしている。「お客様の経営環境、資産運用の環境が劇的に変化するなか、グローバルな視点からは日本の資産価値が暴落しています。専門家として適宜適切な情報を発信し、少しでもお客様に恩返しできるように日々精進します」( ひかり税理士法人:https://www.hikari-tax.com ひかり戦略パートナーズ株式会社:https://www.strac-k.com)
高木真哉◎税理士法人タクトコンサルティング 公認会計士・税理士。監査法人トーマツを経て、2014年に日本の富裕層の相続・事業承継のコンサルティングの先駆けであるタクトコンサルティングに入社。一貫して、日本全国の富裕層の相続・事業承継のコンサルティングに従事。15年、16年に日本公認会計士協会東京会税務第二委員会委員を務め、21年に早稲田大学大学院租税訴訟補佐人制度大学院研修修了。(税理士法人タクトコンサルティング:https://www.tactnet.com)
住江 悠◎フジ相続税理士法人 フジ総合グループ 大阪事務所 所長/不動産鑑定士。相続・不動産評価に特化した税理士・不動産鑑定士事務所であるフジ総合グループ大阪事務所所長。不動産、税金、金融、法律といった分野を横断する知識と経験、複数の専門家とのリレーションを生かし、地主特有の複雑な問題の解決にあたる。各所でのセミナー講演も多数。(フジ相続税理士法人:https://fuji-sogo.com)