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2024.01.23 10:00

日本発の宇宙ビジネスにビッグバンの予感! 2024年さらに成長する革新的ベンチャー

各国政府によって莫大な資金が宇宙産業に投入されている。世界の宇宙ベンチャーは1万社を超え、その産業規模は2022年において3840億ドル(53兆7600億円)に達し、2040年には1兆ドル(140兆円)に成長すると予想されている。こうした情勢のなか、日本の宇宙ビジネスは2024年現在、どんな状況にあり、どのように展開しようとしているのか? Forbes JAPAN2月号の特集「『地球の希望』総予測」をもとに、日本を代表する宇宙ベンチャー2社の動向を検証しつつ、主に日米宇宙産業の現在地マップを俯瞰してみたい。


 Forbes JAPAN2月号の特集「『地球の希望』総予測」の表紙を飾ったsolafuneの上地練氏、弁護士の新谷美保子氏、ispaceの袴田武史氏の3人。3人による特別座談会『地球の希望になるか?「宇宙経済圏」で日本が勝つ方法』も公開中。

アメリカ宇宙産業、急速に進む民営化

2010年、オバマ政権の宇宙政策が発表されてから、宇宙開発事業は広く民間に開放されてきた。当時、世界金融危機からの脱却を模索していた米国は、宇宙開発の民営化によって財政負担を軽減すると同時に、宇宙産業基盤を活性化し、同業界における雇用促進を推し進めようとしていた。

オバマ政権やNASAは、既得権益をもつ米宇宙産業や上院議員など、民営化に反対する勢力から抵抗を受けつつも合意を取り付け、スペースシャトルの後継機となるロケットや宇宙船のほか、ISSの後継機となる宇宙ステーションの基礎プランを、民間企業から入札制度によって次々と募集しはじめた。
 
さらに2017年、トランプ政権下でアルテミス計画が始動すると、月輸送機、有人月着陸機、月面ローバー、月面モジュール、核熱発電機など、あらゆる機材開発の入札を開始。プライズを受けた企業には設計・開発・製造の各工程をクリアするたびに補助金が提供され、その結果NASAは、宇宙開発事業に対して2025年までに930億ドル(13兆5000億円、1ドル145円換算)を費やすと試算されている。

かつて米国の宇宙開発では、一部のコングロマリットが集中的に業務を受注し、その開発費用はそのままNASAに請求されていた。この仕組みのなかでは企業にコスト低減の意識が芽生えるはずがなく、高コスト体制で税金が使われていた。

しかし、昨今の米国の宇宙政策においては固定予算方式が取り入れられている。つまり機材の開発途上で民間企業がどれだけ失敗をおかしても、NASAからの補助金は変わらない。

Forbes JAPAN2月号の特集「『地球の希望』総予測」 に登場する、米国の宇宙政策に詳しい 弁護士の新谷美保子氏 は、「NASAは産業振興のために調達を行う際、契約相手となる企業の起業家がこれまでどのような事業を行ってきたか(失敗も含め)を重視するとしています。なぜなら、これまで失敗した回数が多いほど、その失敗から得た経験が豊富だからです」。失敗も開発の一部と考えるこの思想は、ベンチャーの跳躍力を高め、開発期間を短縮し、機材の安全性と助長性を高めることを可能とする。


スペースX社の再利用型ロケット「ファルコン9」。第2段を分離すると第1段ブースターは海上に浮かぶ無人ドローン船の上に自動制御で着陸。ブースターは20回以上にわたり再利用されている(SpaceX)

こうした開発手法によってもっとも成功した事例がスペースX社だろう。失敗をいとわずトライ&エラーを繰り返し、ロケットの再利用化を実現したスペースXは、ファルコン9とファルコンヘビーによって打ち上げコストを圧倒的に低減。

2021年に計31機、2022年に計61機が打ち上げられ、2023年には計96機が約1200トンのペイロード(荷物)を軌道上に送り届けた。これは全世界のペイロードの80%に相当する。安価なファルコン9の出現によって、日本をはじめとする各国各社は新型ロケットの開発を迫られ、昨今やっとその初フライトに挑んでいる。ただし、こうした潮流によって宇宙はより安く、近くなりつつある。

NASAの補助金を受けて開発された機材は、運用までが当該企業に託される。そのサービスをNASAや政府が有償で利用することで、民間の宇宙ビジネスはさらに高いレベルで持続的に成立するはずだ。

新谷氏は、「軍事衛星などを除けば、ISS退役後の2030年代は、地球を周回する低軌道衛星の多くは民間衛星となるでしょう」と語る。であれば、アルテミス計画における NASAの独自プログラムは、主に宇宙船オリオンとSLSの開発、クルーの管理、月軌道を周回する宇宙ステーション「ゲートウェイ」の建設に限られる。

その結果、NASAの直接的な支出は低減し、公務員であるNASA職員の膨張は抑えられ、産業全体のさらなる効率化が図られるはずだ。こうしてアメリカの宇宙産業の民営化は、わずか十数年の間に急速に進められてきたのである。

月開拓に参画する日本ベンチャー

「ヒトを再び月に送り込む」とトランプ元大統領が宣言したことによって、月に巨大なマーケットが生まれた。月の局地には「水の氷」がある。それを掘削し、溶解した水を電気分解すれば水素と酸素が生成できる。水と酸素はクルーが月面に長期滞在するための糧となり、水素や酸素はロケットの推進剤やローバーの燃料となる。

この仕組みを支えるインフラが整えば、月面におけるヒトの長期滞在が可能になり、月面開拓が効率化され、打ち上げコストがさらに低減される。同時に、この一大公共事業を進めるには、調査、輸送、機材投入、建設など、あらゆる民間サービスが必要となる。


ispace社(本社・東京都中央区)の無人の月着陸機シリーズ1ランダー。UAE(アラブ首長国連邦)の月面ローバーなどを搭載した2023年のミッション1は月着陸に失敗したが、同型の2号機「レジリエンス」が2024年中に再度、月着陸を実施する予定(ispace)

月をめぐる次世代宇宙事業に対して、日本でもっとも早く取り組んだのがispace社だ。同社の無人月着陸機「シリーズ1ランダー」は、月面探査を推進するためのペイロードを複数搭載し、2023年4月に月面着陸を実行した。残念ながらその試みは失敗したが、2024年には2号機「レジリエンス」が再度、月面輸送に挑戦する。

NASAから拠出される補助金は、機体開発に関しては在米企業にしか適用されず、日本の宇宙ベンチャーはその恩恵を受けることはできない。そのためispace社の1号機と2号機の開発・運用の資金は、ペイロードの輸送料や、日本国内の複数の民間企業による援助資金(シンジケートローン)によって賄われた。つまりispace社は、純然たる民間主導によって月面輸送事業の体制を整えた、世界でも稀有な企業である。

しかし、2026年に打ち上げが予定される3号機(「APEX 1.0」)は、アルテミス計画における正式なプログラム(CLPS)として打ち上げられる。ispace社の月着陸機は在米子会社(ispace technologies U.S.)が設計しているが、その機体制御技術においては米国のドレイパー研究所とパートナー契約を締結。こうしたチームを介することでispace社は、NASAから月輸送業務を受託することに成功した。

同じくForbes JAPAN2月号に登場する ispace社のCEO袴田武史氏は、「宇宙はまだ経済合理性のあるかたちで利用できていません。それを実現するひとつの手段が月輸送のコスト低減だと考えています。また、昨今の課題であるSDGs(持続可能な開発目標)を達成するためにも、将来的には宇宙資源が必要になると考えています」と語る。

月面への物流が活性化し、ヒトが月基地に滞在してインフラが整い、あらゆるコストが低減されたとき、月は国の財政政策を必要としない持続的な経済圏となるだろう。アルテミス計画における米国の公共投資は、月と地球を結ぶシスルナ領域に新たな経済圏を生み出すための呼び水でしかないとも言える。この壮大なプロジェクトに日本企業がスタメンとして参画するには、国境を超えたあらゆる連携が欠かせない。

新たな価値を生む地球観測衛星のデータ


ESA(欧州宇宙機関)の地球観測衛星センチネル2は、同型の2機の衛星によって高度約800kmの軌道上から農作物、地質、水質などを赤外線によってモニタリング。その解像度は最大10m(ESA/ATG medialab)

月から利益を得ることは、まだイメージしづらいかもしれない。しかし、地球周回軌道上には気象、通信、GPSなどの人工衛星が数多く配置されており、私たちはすでに宇宙ビジネスの恩恵を大いに享受している。そして今後、我々の生活に大きな影響を与え、さらなる需要を生むと考えられているのが、地球観測衛星のデータ活用だ。

Solafune社は、衛星データの先鋭的な活用を試みる国内ベンチャーである。地球観測衛星が取得するデータを独自のプロトコルで解析することによって、農作物の生育予測と収穫時期を推定し、石油タンクの蓋の影から原油の在庫量を推定する。また、アフリカにおける鉱物資源の違法採掘の状態を明かにし、途上国の水質汚染からマラリアの発生率を予想している。同社はこうしたデータ解析を試みると同時にサイト上でコンテストを展開し、世界中のエンジニアや研究者のリソースを集積。あらゆる産業に有益な価値を、衛星データから生み出している。

月輸送から地球観測衛星のデータ解析、さらには宇宙旅行サービスまで、宇宙ビジネスは多岐に渡る。そうした宇宙産業を育成するために日本政府は2023年10月、JAXAに宇宙戦略基金(SBIR)を設け、10年間で総額1兆円規模の支援を国内民間企業に行う方針を明らかにした。米国の政策から十数年遅れているとはいえ、日本の宇宙ベンチャーが世界で活躍するにはこのバックアップは欠かせない。

ただし、Solafune社のCEO上地練氏(同じくForbes JAPAN2月号に登場)は指摘する。「補助金が命綱になると、補助金を取ることがその企業の目的になってしまいます。自社のサービスはあくまでエンドユーザーのためにあり、民間はサービスの質で勝負するのが健全な姿。国から補助金が出るのは素晴らしいが、ロビイングの上手い企業に補助金が流れ、日本の宇宙産業が停滞する事態を危惧します」

日本の宇宙産業は公共事業から民間事業へと進展しつつある。自動車産業で培った土壌と、国の適切な援助をベースにすれば、日本は宇宙経済圏でさらなる優位性を発揮する違いない。その実現のためには、民間サービスの質と量をより向上させ、国は法整備を急ぎ、官民すべてが宇宙産業におけるスピード感を増すことが求められている。

※この記事に関するさらに詳しい情報は、Forbes JAPAN2月号の特集「『地球の希望』総予測」をご覧ください。

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