本記事では受賞者5名のうち、「DX推進賞」を受賞した味の素グループの香田隆之にスポットを当て、本誌よりの転載でお送りする。
「使いやすいデータを整備すること、そしてデジタルを使いこなすスキルをビジネスに携わる全員が身につけること。このふたつが、デジタルトランスフォーメーション(DX)の本丸だと思います」
味の素グループでCDO(Chief Digital Officer 最高デジタル責任者)を務め、DXによる自社変革の陣頭指揮に当たる香田隆之はそう話す。
味の素グループは「アミノサイエンスで、人・社会・地球のWell-beingに貢献する」というパーパスを策定し、2030年までに環境負荷を50%削減し、10億人の健康寿命を延伸するという成果を目標に掲げている。その実現に向けて組織や人材、技術、顧客といった無形資産の強化を図るべく、デジタルを駆使。20年から25年にかけて、総額約450億円をDXに投資する計画だ。また、従業員のエンゲージメントスコア、DX人材の教育および採用数をDXの重点KPIとして設定。20年から開始された「ビジネスDX人財」教育プログラムでは、3年間で従業員の約8割にあたる2436人が認定を取得した。
「CDOの仕事は、デジタルを『仕組み』としてしっかり使えるようにして変革を加速すること。データ基盤を用意して、社員一人ひとりが使いこなせるようにするのもそうです。自社のもつさまざまな機能のバージョンアップ、質や効率の向上をデジタルで後押しするのが、私の役目です」(香田)
味の素グループでは、DXを4つのステージに分けている。全社のオペレーションを変革するDX1.0、パートナーとの協働を通じてエコシステムを変革するDX2.0、新たなサービスや新事業の創出を目指すDX3.0、自社の事業を通じてパーパスや成果目標に掲げられた社会変革を実現するDX4.0だ。海外拠点を含めた全社が一体となり、各ステージの達成に向け切磋琢磨している。
ベトナムの給食と母子健康に貢献
味の素グループがDXを全社的な最重要課題としてとらえていることが垣間見えるのが、その組織構造だ。食品事業本部、アミノサイエンス事業本部、コーポレート本部という3つの本部をもつ同社は、19年に各本部へ横串を通すかたちでDX推進委員会を設置。20年にはさらなるDXの加速に向けて、全社オペレーション変革タスクフォース・事業モデル変革タスクフォースを設置している。「そもそも各事業本部を縦軸とする事業ラインが非常に強い会社なので、それに合わせて独立したDX部隊をつくるとその部隊が孤立し、本来のDXである全社を巻き込んだ形のトランスフォーメーションにつながらないのではないかということで、横串を通す組織構造になっています。委員会のメンバーも事業部長や場合によっては常務など、権限をもった人間で構成し、DXを強力に推進しています」(香田)