しかし、その施設の奥まった一角に、ムーボン社と提携し、パーソナル・コンピューティング分野の次の大手になる可能性を秘めたBrilliant Labs(ブリリアント・ラボ)というスタートアップが拠点を構えている。
同社を5年前に設立したCEOのボバック・タバンガー(Bobak Tavangar)は、彼の言葉によれば「視覚的な超能力」をユーザーに与えるための人工知能(AI)機能を統合した拡張現実(AR)メガネを開発している。35歳のタバンガーは、オープンソースのプラットフォーム上でこのテクノロジーを開発し、より多くの開発者を引き込もうとしている。
「当社のデバイスは、ハードウェア面だけでなく、AIの活用においても次の飛躍をもたらそうとしている。AIはあなたの副操縦士として、世界をナビゲートしてくれる」とタバンガーは話す。
ブリリアント社は、今年の第1四半期中に第一弾のスマートグラスをリリースする準備をしており、初期段階では音声コマンドによる操作に対応させる予定だという。同社はその後、ユーザーの周囲で検出されたアイテムに基づく視覚的・音声的プロンプトへの対応や、メガネを通して見える現実世界の色のコントラスト調整やズーム機能などを実現する、さまざまな機能を追加しようとしている。
タバンガーは同社の未来に大きな野心を抱いているが、資金力のある大手企業が10年にわたる努力を続けているにもかかわらず、AR分野はまだニッチな市場だ。グーグルの「Google Glass」とマイクロソフトの「HoloLens」は、どちらも消費者の支持を得ることができず、グーグルは最新版のプロダクトの販売を中止した。
ブリリアント社は、長期戦を覚悟して、このテクノロジーの未来に賭けている。ライバル企業が巨額の資金を燃焼させ続けているなかで、タバンガーの会社は、収益性を重視しつつイノベーションを起こそうとしている。
同社は、最初の製品として、メガネに取り付ける単眼レンズ型のARデバイス「Monocle」を発売し、収益を上げている。この製品には、ChatGPTとStable Diffusionの拡張機能が組み込まれており、ユーザーは音声コマンドで質問したり、会話を翻訳したり、画像を生成したりすることが可能だ。タバンガーと彼のチームは、まだいくつかのバグを解決している最中だが、Monocleはブリリアント社の今後の方向性を示す実用的なプロダクトだ。
Oculusやペブルの創業者から600万ドルを調達
Monocleは、マイクとカメラを内蔵したオープンソースの製品で、ソフトウェアの開発には、3000人近い開発者が参加し、人々の顔と名前を一致させたり、楽器の演奏を学んだり、聴覚障害者が音を識別するのを助けるなど、さまざまな用途に向けてこの製品をプログラムできるようになっている。スタンフォード大学の学生グループは、このデバイスがデートや面接の際に言うべきことを提案してくれるプログラムを開発した。2月に299ドル(約4万5000円)で発売されたMonocleは、すでに3000台以上が販売されたが、タバンガーは正確な売上高や利益の開示を避けている。
Monocleは、ブリリアント社のビジョンを達成するための重要な一歩であり、アップルが買収したSiriの共同創業者であるアダム・チェイヤーなど重要な出資者も獲得している。