欧州

2024.01.18 10:00

撃墜のロシア軍機、ウクライナの周到な罠の餌食に? 専門家が謎解き

「ウクライナ側がやるべきことはただ、2機を遠距離から狙うのに適したSAM(地対空ミサイル)システムを密かに配備することだった」とクーパーは記している。「それはS-300SAMシステムだったかもしれないし、PAC-2/3SAMシステムだったかもしれない」

あるいは「PAC-2/3システムの発射機、レーダー、電源車と、S-300のレーダーを組み合わせて配備した可能性」もあるという。

実際、攻撃はS-300とパトリオットの合せ技だったことをうかがわせる形跡がある。A-50とIl-22が攻撃される数分前、ロシア空軍のスホーイSu-34戦闘爆撃機が、それまで知られていなかったウクライナ軍のS-300のレーダーから発射された電波を検知していたと報告されている。

もしS-300が最初にレーダーを照射したのであれば、近くに潜むパトリオットに目標の航跡を伝達したに違いない。「後者(パトリオット)はほんの数秒間レーダーを作動させた。これはパトリオットが目標に関するデータを取得するには十分長かったが、ロシア側がその電波発射を検知し、脅威と判断するには短すぎた」とクーパーは論じている。

「そして、ウクライナ側はミサイルを発射し始めた」

1分後、これらのミサイルは爆発し、A-50を破壊、Il-22を損傷させた。「火力戦闘が終わると、ウクライナ軍のS-300、PAC-2/3部隊は即座に電波の発射をやめ、システムをたたみ、ロシア側による報復を避けるため撤収した」とクーパーは推測する。

今回の撃墜によって、ロシア空軍が使えるA-50は残りわずか2機になった可能性がある。ほかに6機あるものの、いずれも改良や全面改修が必要と伝えられる。ロシア空軍は最後の2機を危険にさらすのをいとわないのでなければ、クリミア全域のレーダーによるカバーはもはや不可能になったという新たな事態と折り合いをつけねばならない。

言い換えれば、ロシア軍は今後、クリミア駐留部隊に対するウクライナ軍のミサイル攻撃が続く、いや、さらに激しくなる危険を受け入れなくてはならないということだ。

ロシア側に慰めになる話があるとすれば、ウクライナ空軍がPAC-2ミサイルを無限に入手できる見込みではないということかもしれない。米議会のロシア寄りの共和党議員がジョー・バイデン大統領の610億ドル(約9兆円)規模の新たな対ウクライナ支援予算案を承認しない限り、ウクライナ軍はミサイルの使用を抑えざるを得ず、ミサイルを用いる大掛かりな罠を仕掛ける試みも手控えなくてはいけなくなるかもしれない。

forbes.com 原文

翻訳・編集=江戸伸禎

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