ファイナンスの知見をDXに生かす
磯村の改革手法は一見すると型破りだが、極めて合理的だ。先を見通す力はいかに培われたのか。「前職の投資会社で投資先の経営再建に携わった経験は大きいですね。どうすれば事業を改善できるのか、新規事業を立ち上げられるのか身をもって学んだから、今DXをダイナミックに進められるんだと思います」
投資会社で身につけたファイナンスの知識も役立ったという。
「トリドールに転職してすぐ総勘定元帳を引っくり返してIT費用の実態を把握しました。そのうえで、さまざまなSaaSの見積もりをとって、従来のIT費用と同じかそれ以下になるようなロードマップをまとめて取締役会に諮った。それでゴーサインを得たのです」
転職からロードマップ策定までの期間はわずか3カ月。大胆な改革の裏には緻密な計算があったのだ。
「私たちは『グローバルフードカンパニー』になるというビジョンを掲げています。だからこそ成長スピードを上げる必要がある。DXはそのための手段です」
SaaSとBPOによる業務システムの土台が整った今、トリドールのDXは企業価値を上げる段階に入った。次のターゲットのひとつは「店長」だ。
「『手づくり』『できたて』には手間ひまがかかる。そのうえ、スタッフのシフトを組んだり、食材を発注したりする店長には身体的にも精神的にも大きな負担がかかっている。そこで今、ITベンダーと共に『AIによる需要予測』や『シフト管理と発注業務の省力化』に取り組んでいます」
CIOの役割とは何だろうか。
「会社の目的や強みを見失わず、経営目線を常に意識することです。目指す姿がはっきりすればバックキャストで現状とのギャップがわかる。そこからロードマップを描いて実行するのがCIOの役割です」
磯村康典◎1993年富士通へ入社しSEとしてキャリアを開始。2000年にソフトバンク入社。その後イー・ショッピング・ブックス(現セブンネットショッピング)など複数の企業を経て、19年よりトリドールへ。