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2024.01.29

世界の感染症と闘うGHIT Fundが豊田通商に学ぶラストワンマイルの重要性

日本発の国際的な官民ファンドである公益社団法人グローバルヘルス技術振興基金(GHIT Fund。以下、GHIT)のCEO、國井修と世界を舞台に活躍する企業のリーダーが、対話を通じてグローバルヘルスの課題解決や日本が担うべき役割を紐解く本連載。

第1回目となる今回は、「WITH AFRICA FOR AFRICA」という理念の下、アフリカ全土でモビリティやヘルスケア事業を手掛ける豊田通商の副社長 今井斗志光をゲストに招き、グローバルヘルスへのあるべき姿や未来像について語り合った。


ラストワンマイル、必要とする人に届ける力


今井斗志光(以下、今井):私は1988年に豊田通商に入社し、25歳で東アフリカにあるマダガスカル島に赴任しました。当時のアフリカ諸国は多産多死が当たり前の世界でした。少し生き延びることができた子どももマラリアで亡くなっていく。アフリカの人たちが直面する栄養や感染症の問題について考える機会が多くありました。

中長期的に見れば、アフリカの人々の生活水準は先進国並みになるでしょう。それでもマラリア自体はなくならないと思いますし、アフリカのグローバルヘルスはいまだ世界的な課題だと認識しています。

國井修(以下、國井): 今井さんがマダガスカルにいらした1990年代前後、まさに私もアフリカ大陸にいました。印象的だったのは、ソマリアで豊田通商の社員の方にお会いしたことです。こんな地の果てでも日本人が活躍しているのかと感銘を受けたのを覚えています。

GHITは、⽇本の技術やイノベーションを通じて顧みられない人々を救うために2013年に設立した官⺠ファンドです。⽇本の外務省や厚生労働省をはじめ、国内外の主要製薬企業やビル&メリンダ・ゲイツ財団、ウェルカムなどが参画しています。設立以来、現在でも年間約20億人の感染者、約200万人の死者を生む結核やマラリア、20以上の疾患群で構成される顧みられない熱帯病(Neglected Tropical Diseases: NTDs)を含む感染症の治療薬やワクチン、診断薬の開発などに300億円以上を助成してきました。

日本を含む先進国ではNTDsや結核などの感染症の患者が少なく、新薬の開発が進まないという現実があります。一方、アフリカをはじめ低中所得国では多くの感染者がいながらも治療薬、ワクチン、診断薬がない状況が続いています。そこで政府や民間が力を合わせながら少しずつ資金を拠出し、グローバルヘルスの課題に向き合っています。

御社は100年以上にわたりアフリカで事業を展開し、22年3月期のアフリカ事業の売上高は1兆円を突破したそうですね。今井さんはその牽引役と伺っていますが、どのようにアフリカ事業を展開・拡大してこられたのでしょうか。

今井:当社のアフリカ事業の柱は主に4つです。1つ目が自動車の現地生産・販売などのモビリティ分野。2つ目が医薬品の現地生産・販売などのヘルスケア分野。3つ目が消費財のショッピングモール運営・小売などのコンシューマー分野。そして4つ目の柱が再エネ開発などの電力・インフラ・テクノロジー分野です。これらのうち、主な収益源は自動車と医薬品です。

私がマダガスカルに赴任した頃は、豊田通商はトヨタ車を中心に日本製品の輸出を手掛ける典型的な商社でした。潮目が変わったのは00年です。ケニアなど東南部のトヨタの販売店を買収、南アフリカにアフリカ統括拠点を設置し、輸出業から現地の販売業へと業態をシフトしたのです。私もこの時期に南アフリカに駐在し拠点の立ち上げに携わりました。

12年にはフランス最大のアフリカ専門商社だったCFAOの株式を取得し、16年に完全子会社化しました。CFAOは自動車と医薬品を中心に卸売事業を展開していた企業です。買収を経て、当社はアフリカ54カ国全域で自動車と医薬品の販売を手がけるようになりました。現在、医薬品の生産や卸を行うヘルスケア事業はアフリカの22カ国で展開しています。

豊田通商には、モビリティを使ってアフリカの奥地までくまなくモノを届ける力があります。この能力を強みに、8,600カ所ある薬局や病院に必要な医薬品などを毎日配送しています。

豊田通商副社長・CTO 今井斗志光

豊田通商副社長・CTO 今井斗志光


國井:薬局の存在はとても重要です。アフリカでは、大きな病院を作っても維持費だけで莫大な額になります。病院建設に資金を費やすよりも、農村や田舎の診療所や薬局を充実させて有効活用したほうが、より多くの人たちの健康的な生活の確保につながります。

アフリカの奥地などでは偽造医薬品も出回っています。だからこそ、薬局の質や役割を高めて安価でかつ適切な薬を処方し、さらに患者さんの健康問題に対処して、健康管理や指導も行えるようになるとアフリカに大きな貢献ができると思います。

ラストワンマイルの先の「顧みられない人たち」


今井:豊田通商では、難民キャンプなど医療アクセスが脆弱なエリアの人たちには赤十字や世界保健機関(WHO)、国連児童基金(UNICEF)などを通じて薬を提供しています。アフリカ奥地にある薬局にもくまなく薬を届けるとともに、医薬品を買えない人にも国際機関などを通じて届ける。アフリカでこのようなケイパビリティを持っている日本企業は当社だけでしょう。

当社のアフリカ本部には「WITH AFRICA FOR AFRICA」というスローガンがあります。アフリカの人や社会とともに成長し、実りはアフリカの地に帰すという意味です。当社はアフリカ事業に携わる従業員が約2万3,000人いますが、誰に聞いてもこのスローガンを口にします。ビジネスを通じて地域経済の発展や人々の暮らしの向上を支えたいという思いが組織全体に根付いているのです。

國井:UNICEFのニューヨーク本部保健戦略上級アドバイザーをしていたとき、医薬品のラストワンマイル戦略についてはかなり議論しました。特にアフリカでは、ラストワンマイルの先にこそ最も薬を必要としている人たちがいます。

たとえば、国民全体のワクチン接種率が60%から90%に上がるのはとても嬉しいことです。しかし現場で痛感するのは、残った10%の人たちこそ最も「顧みられない人たち」だということです。そこには医療の問題だけではなく、教育や貧困など、さまざまな問題が複雑に絡み合っています。どう届けるかという問題は、当時も今も変わらず私の中で大きなチャレンジのひとつです。

実は昨年12月に、GHITが支援して開発した住⾎吸⾍症に対する就学前児童の治療薬「arpraziquantel」について欧州医薬品庁(EMA)が肯定的な科学的見解を示してくれたので、治療を必要とする子どもたちへ一刻も早く薬を届けたいと思っています。この薬が市場に入れば、主にアフリカでおよそ5000万人以上の未就学児の治療を可能にし、健康を改善することができます。この薬をどうやって必要な子どもたちに届けるかが次の課題です。ぜひとも豊田通商さんのお知恵をお借りしたいところです。

公益社団法人グローバルヘルス技術振興基金(GHIT Fund)CEO 國井修

公益社団法人グローバルヘルス技術振興基金(GHIT Fund)CEO 國井修

それぞれの強みを生かし、皆で社会をよくしていく


今井:グローバルヘルスは領域が広範囲にわたるため、官民学はもちろん、世界中の国や国際機関などが役割分担しながら問題解決に取り組む必要があると思います。連携先のひとつとして、豊田通商ではスタートアップにも目を向けています。社内にアフリカのスタートアップに特化したコーポレート・ベンチャーキャピタル(CVC)を持ち、モビリティやヘルスケア分野のスタートアップを支援しています。

アフリカにはナイジェリア、ケニア、エジプトなどスタートアップのホットスポットが複数あります。これらの国では他国に移住していたディアスポラや、米国の大学に留学していた人たちが起業するケースが多く見られます。フィンテック関連のスタートアップが多いですが、ヘルスケアテック関連も相当数あります。

とはいえ、成功を収めるスタートアップはごくわずかです。「死の谷」に落ちていく企業も跡を断ちません。そこで、私たちは利回りを狙うのではなく産業を育てるために、ともにモビリティ事業やヘルスケア事業を高めていけそうなスタートアップに少額ずつ出資しているのです。

國井:私もアフリカで活躍するスタートアップの存在には注目しています。今はデータの時代です。スタートアップが開発したITツールで取得したデータは医薬品のデリバリーから患者の診断、モニタリング、薬の研究開発などさまざまなことに使える可能性があります。

パンデミックを経て、グローバルヘルスに対する意識は世界的に高まっていると感じます。感染症のもとになる微生物は地球上のあらゆるところに棲息していて、変異を繰り返して人間にも飛び移ってきますから、これからも新たなパンデミックは確実に起こってくるでしょう。日頃からそのための準備、特に研究開発に取り組む必要があります。GHITは引き続き、世界の感染症の研究開発を促進し、グローバルヘルスへの投資を続けていきます。

今井:当社は薬局や難民キャンプなどラストワンマイルまで医薬品を届けることはできますが、創薬などはできません。自分たちができることに全力で取り組みながら、皆で社会全体をよくしていくことが求められます。

國井:おっしゃる通りです。グローバルヘルス課題を本気で解決するという目標や目線を共有できるパートナーと連携しながら、資金調達から創薬、臨床試験、医薬品アクセスなど、それぞれの強みを生かしながら取り組むことが重要だと思います。

GHIT Fund
https://www.ghitfund.org/jp

いまい・としみつ◎豊田通商副社長・CTO。早稲田大学商学部卒業後、豊田通商に入社。1991年にアンタナナリボ(マダガスカル)事務所長、2000年に豊田通商アフリカ(南アフリカ)出向、13年CFAO社副社長を経て16年に豊田通商執行役員兼CFAO社副社長に就任。トヨタ自動車常務役員アフリカ本部長や豊田通商アフリカ本部COOを経て、22年より現職。

くにい・おさむ◎公益社団法人グローバルヘルス技術振興基金(GHIT Fund)CEO。自治医科大学を卒業後、ハーバード公衆衛生大学院で修士取得。国立国際医療国際センター、東京大学大学院国際地域保健学専任講師、外務省経済協力局課長補佐、長崎大学熱帯医学研究所教授、国連児童基金(UNICEF)ニューヨーク本部上級アドバイザー、ミャンマー・ソマリアの保健栄養事業部長、グローバルファンド(世界エイズ・結核・マラリア対策基金)戦略・投資・効果局長などを経て2022年から現職。

Promoted by GHIT Fund / text by Hiro Matsukata / photographs by Munehiro Hoashi