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2024.01.25 11:00

過去最大の赤字からビジネス領域の拡大に成功 サステナビリティ経営を軸にしたニコンの成長戦略とは

2021年3月期、100年を超える歴史のなかで最大の赤字を計上したニコン。しかしわずか1年で業績回復を果たした。22年にはサステナビリティを経営基盤のひとつに位置付け、事業領域を広げている。ニコンはいかにして企業成長を実現しているのか。


ニコン取締役 兼 専務執行役員CFOの德成旨亮(写真。以下、德成)は、2020年4月に三菱UFJ銀行から招聘された財務のプロフェッショナルだ。彼の話から、ニコン復活の軌跡をたどっていく。

大胆な経営方針の転換と
IR活動で復活の狼煙を上げる

業績回復に向け、最初にニコン経営陣が行ったのがカメラなどを生産・販売する映像事業の見直しと、新たなコンポーネントビジネスの創出だ。

「映像事業では、簡単に撮影できるという利点はスマートフォンに譲り、中高級機種に経営資源を集中。プロ・趣味層をメインターゲットにしたことで、自分らしい自己表現をしたいという若い世代を含むお客様から支持をいただき、売り上げを伸ばすことができました。

一方、コンポーネントビジネスでは、我々の技術を他社様のソリューションとして活用いただくことに発想を転換し、事業領域の拡大を図りました。

ニコンは、髪の⽑の細さの1万分の1ほどの回路を描ける極めて⾼精度な半導体露光装置を製造しています。こうした技術の応用で、コンポーネント事業の営業利益は21年3月期の1億円から翌年は127億円へと成長しました」

德成が事業面の社内改革と並行して着手したのが、投資家との対話の重視だ。

「資本を得るにはニコンの良さを知っていただく必要があり、ニコン初の『IR Day』を開催しました。映像事業部や半導体装置事業部などの各事業部長が事業をわかりやすく説明したほか、社外取締役が経営状況を忖度なく分析し、投資家の方々と直接対話する機会を設けました」

さらに投資市場の興味を引いたのが、「株主還元1割」という驚くべき戦略だ。

「株価が落ちると自社株買いや配当を増やして株価を上げようとするのが⼀般的ですが、我々は異なる資本政策をしました。22年4月に発表した中期経営計画において、今後4年間で見込まれるキャッシュのうち、株主への還元は1割とし、残りの9割をM&Aなどの戦略投資や研究開発、設備投資などに充てることにしたのです」

これが本質的企業価値向上を重視する長期投資家の琴線に触れ、「ニコンの未来に投資したい」と思わせることに成功。同時に德成は、技術開発に長い時間を要する自社の特徴を理解してくれる投資家に対し、積極的にアプローチを行った。現在も、年に数回は海外に⾜を運ぶと話す。

「投資家には社内の事情を伝え、社内には投資家からのプレッシャーや期待を伝える。社内外の結節点、コミュニケーターであることが、CFOの役割のひとつだと考えています」

自社の強みを生かした
サステナビリティと成長戦略の融合

参画前からニコンを徹底的に分析してきた德成は、同社の強みを見つけ出した。

「CSR(企業の社会的責任)の評価が高く、女性活躍指数やCDP気候変動Aリストに選定されており、DJSI(ダウ・ジョーンズ・サステナビリティ・インディシーズ)の構成銘柄にも6年連続で選ばれています。そこで、私はESG投資家へのアプローチを強化しました」

こうした施策により株価の回復・安定を維持しながら、ニコンがさらなる成長を目指して取り組んだのが、「2030年のありたい姿」への挑戦だ。

「人と機械が共創する社会の中心企業」を30年に向けたビジョンに掲げ、サステナビリティと成長戦略を同時に実現する新たなビジネスモデル「コア技術による社会価値創造」を打ち出した。その一環として現在推し進めるのが、脱炭素社会の実現に向けた技術の創造だ。

「まず取り組んだのが、独自の技術を⽣かした『リブレット(サメ肌)加工』です。レーザー加工技術により、空気や水と接する面に微細な三角凸の構造を加工することで、摩擦抵抗を減少させることができます。

この技術により航空機などの空気抵抗の減少、エネルギー効率の向上が可能になります。現在、ANAやJAL、JAXAと耐久性試験を重ねており、近い将来、燃費改善やCO2排出量の大幅削減につながるものと期待しています」

また、ニコンの光利用・精密技術は、再生医療の実用化・発展にも貢献する。

「難病や症例の少ない病気への選択肢として再生医療が注目されており、治療用の細胞を自動化システムで製造する研究が行われています。その研究現場で我々の自動細胞観察装置が使われており、細胞の品質管理に必要な高精細な画像データを、自動で取得することができます」

コア技術を極め、新たな価値の提供に成功しているニコン。サステナビリティ経営への取り組みは、ESG投資家を含むさまざまなステークホルダーから高い信頼を得る一因となっている。

金属3Dプリンターの高い技術で
世界に勝負を仕掛ける

ニコンは22年、金属3Dプリンターで世界シェア3位のドイツ・SLM Solutions Group AG(現Nikon SLM Solutions AG)を子会社化した。そのM&Aで欧米での市場進出基盤を固めた後、23年4月、アメリカ・西海岸にアドバンストマニュファクチャリング(付加加工/AM)事業部の本社機能を担う、Nikon Advanced Manufacturing, Inc.を設立。国外に事業部本社を設置するのは、1917年の創業以来初めてのことだ。その目的について徳成は「宇宙航空など市場のニーズ拡大が見込まれる米国におけるAM事業の強化」だと語る。

「半導体露光装置の技術を応用したのが『付加加工』と呼ばれる金属3Dプリンターです。金属粉末を敷き詰めた上に光を当てて造形する標準的な技術と、もうひとつは光で溶融させた母材に対して金属粉末を噴射し、造形を行うものがあります。

人類はこれまで何千年にもわたり、鋳造や鍛造によって⾦属部品をつくってきました。しかし金属3Dプリンターは、金属の粉末と光だけで非常に自由度の高いものづくりができる。

金型が不要で、設計の変更が容易であり、粉体のリサイクルが可能なため、資源のロスがない。まさに地球環境に優しい技術です。宇宙航空分野に用いられるチタン合金やニッケル基合金にも対応できるため、あらゆる分野で大いに力を発揮します」

こうして事業領域の拡大を進めているニコン。最後に今後の展望について聞いた。

「『お客様とともに成長する』というマインドセットをもつことで、ニコンは窮地を乗り越えることができました。日本経済は過去30年間のデフレのなかで現状維持で良しとし、世界の成⻑から取り残されましたが、インフレとともに攻めに転じるタイミングだと思っています。

ニコンが世界で評価される企業になり、お取引先企業を含め、⽇本が世界から必要とされ続けるよう努⼒していくつもりです」

高度な技術力と未来を見据えた成長戦略でよみがえったニコンは、今再び世界へと勝負を仕掛ける。

「CES2024」に出展


2024年1月9~12日に米国・ラスベガスで開催された「CES2024」。ニコンは、Vision2030(2030年のありたい姿)のワードにある「Co-create seamlessly(共創)」をテーマに、ライフ&エンターテインメントとヘルスケアを含む「クオリティオブライフ」、ファクトリーとエネルギーを含む「インダストリー」の2エリアから成る体験型コンテンツを展開。エンタメ性の高い演出で来場者から高評価を得た。

ニコン
https://www.jp.nikon.com/

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とくなり・むねあき◎1982年に三菱信託銀行入社。三菱UFJフィナンシャル・グループCFO兼三菱UFJ銀行CFO、米国・ユニオンバンク取締役を経て、2020年6月より現職。Institutional Investor誌のグローバル投資家投票で、⽇本の銀⾏業のベストCFOに20年まで4年連続選出(16〜19年の活動に対して)。主な著書に『CFO思考』(ダイヤモンド社)など。

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