むしろ、ウクライナ南部クリンキの橋頭堡周辺におけるロシア軍の運命は悪い方へと向かうかもしれない。ウクライナ軍南部方面司令部のナタリヤ・グメニュク報道官によると、クリンキでウクライナ軍の防衛を突破するのにロシア軍の司令官らが当てにしていた、訓練不足で軽装備の「ストームZ」突撃部隊のほとんどが死傷しているか、捕虜になっているという。
ストームZの隊員のほとんどは前科者か召集兵あるいは元傭兵だ。軍事アナリストのトム・クーパーによると、ストームZ部隊は「ろくに訓練も受けず、まともな戦闘服もないまま武器を与えられ、航空機や大砲による適切な支援がない中を攻撃に送り込まれる」のだという。
ロシア政府にとって、ストームZの隊員は使い捨てだ。そして昨年あたりから、ロシアの戦争の計画に不可欠な存在になっている。歩兵が先頭に立ってウクライナ軍の要塞を正面から攻撃するロシア軍の「肉弾戦」において、ストームZの隊員は「肉」だ。
ロシア軍が最近優勢となったところでそうなったのは、肉弾戦でウクライナ軍を圧倒したからだ。ロシア軍が地歩を広げられなれなかったところでそうした結果になったのは、ウクライナ軍がストームZ部隊を100人単位で殺して肉弾戦に勝ったからだ。
「特に我々の方面では、ストームZタイプの部隊が減少している」とグメニュクは指摘した。「敵の損失はかなり大きい。10〜15人の部隊が我々の陣地を襲撃しようとすると、少なくともその半分はその場で死亡する」
ストームZの隊員が死亡したか、負傷しているため、左岸にいる海軍歩兵や空挺隊員、陸軍機械化部隊などのロシア軍部隊は、ウクライナ軍の橋頭堡に「肉」を送り込むことができない。もちろん、自分たちが「肉」になることを選ばなければの話だ。
「このため、ロシア軍の部隊では道徳的な問題や精神的混乱、さまざまな種類の争いが起きている」とグメニュクはいう。「海軍歩兵や空挺部隊の割合が高くなっている。自分たちはエリートだと考えており、そのような行きたくない攻撃には行かない」
グメニュクの指摘が正しければ、クリンキ周辺ではロシア軍の指揮統制にほころびが生じている。「ドニプロに展開する部隊の指揮には多くの混乱がある」(グメニュク)。
そうした評価を行うのはグメニュクだけではない。あるロシア軍の空挺隊員によると、左岸にいるロシア軍の指揮の危機は昨年12月初めには明らかになっていたという。「上級の司令官は一部の部隊と意思疎通を図ることができない」と空挺隊員は当時手紙に書いている。
砲火を浴びてストームZ部隊が全滅する前、クリンキ周辺のロシア軍の司令官らが部隊を統制できていなかったとすれば、ストームZ部隊より訓練を受けた部隊がウクライナ軍の砲火を浴び始めなければならないいま、苦慮している事態が想像できる。
(forbes.com 原文)