食&酒

2024.01.21 10:30

イソギンチャクやナマコも食材に 仏名店に新シェフが就任

イソギンチャクやナマコの料理のきっかけとなったのも、やはり生産者だ。

「パリ時代から付き合いがあったものの、モナコからは30キロほどしか離れていない場所に住んでいるので、格段に関係性が深まった」という名物漁師、オリビエ・バドゥー氏が、「これで料理を作ってみないか」と声をかけてきたのだという。

船上で活け〆を行うのみならず、素潜りしてモリで魚を捕らえることもあるというバドゥー氏を、ピロン氏は「私にとって海の中の目のようなもの」と信頼する。彼が仕留めた魚が主役の料理には、料理名にも「オリヴィエ・バドゥーの××」と名前がつくなど、業界では著名な生産者だ。

これまで、磯臭いとして好まれず、食べる人がいなかった地元産のイソギンチャクとナマコを、宮殿のようなインテリアの店内にふさわしく洗練され、かつ美味しい料理にするのか。

特に加工が難しいと感じたナマコに関しては、北京の「大董(ダドン)」に一週間研修に行き、乾燥、そして戻し方なども学んできたそう。そうして完成した料理では、乾燥させて戻したナマコを煮てから刻み、コーンのグリーンサラダに入れ、魚のサイドディッシュに仕上げた。

イソギンチャクはパセリとイラクサの葉と共にソーセージに詰め、揚げたアーティーチョークとキャビアの料理の添え物にした。ソーセージに入れることで、変わった見た目が気にならなくなる。いずれも、ナマコやイソギンチャクの海の香りが魚やキャビアの味をひきたてるという趣向だ。

店内の生簀には、ロブスターと共にイソギンチャクが入れられており、常にフレッシュな状態で提供できるように工夫されている。デュカス氏も日本訪問の際に海藻の養殖場を視察するなど「これからは海藻にも注目したい」と語っていた。

ピロン氏は、「パリでは、水の冷たいブルターニュ地方から海藻を入れていたが、地中海は水が温かいため、種類があまり多くない。とはいえ、あまり海藻を食べる文化がないからこそ、まだ見つけていない美味がここに眠っているかもしれない」と語る。先日バドゥー氏にリビエラ周辺でとれる様々な海藻を持ってきてもらい、食べられるものを試しているという。

この他にも、未利用魚や切り身をとった後の魚の端を使った「魚のパテ」など、無駄なくおいしく食材を使い切る料理を開発中だ。また、スタッフが周辺の海辺でとってくるシーフェンネルなどの野草も使われている。

海や山が近いからこそ、食材を知り、その可能性を探究することが日常に組み込まれる。「ナチュラリテ」の料理は、今またこのモナコの地から、革新を始めている。

文=仲山 今日子

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