産学連携による新事業が年々増えている。文部科学省によれば、大学などが民間企業から受けた研究資金の額は、2021年には1278億円で、その5年前から比べて30%以上増加したという。こうしたデータを裏付けるように、私が最近よく耳にするようになったのは、モノづくり力がある地方の優良中堅企業が、大学の研究所や研究開発型ベンチャーの先端技術を活用して新事業に取り組み、成功している事例だ。
中小企業における産学連携といえば、以前は大企業の下請けとしてあくまでも「サポート」に回り、試作品や部品をつくるというケースが多かった。しかし、最近増えているのはむしろその逆で、中小企業がプロジェクトのオーナーとなり、市場を創出するために高度な研究技術を伴った新商品や新事業を生み出しているパターンである。例えば、アルミ切削加工を行うHILLTOP(京都府)が大同大学との共同研究を通じて事業化した小型EV等にも搭載可能な高効率モーターや、COEDOビールで有名な協同商事(埼玉県)が信州大学の酵素処理技術を用いて新商品のフルーツエールを開発した例などだ。
また、東大の研究者らが集うスタートアップのアスターによる耐震塗料事業もまさにそのパターンだ。同社のCEO鈴木正臣氏の家業であり、建物補修を専門としてきた中小企業エスジー(静岡県)のコア技術に東大発の研究技術を組み合わせ、石やレンガ、コンクリートブロックなど、組積造の壁に塗るだけで大地震にも耐えられる強度になる塗料を開発、商品化した。
日本の建築物では当たり前のように実装されている耐震技術でも、世界にはさまざまな事情から導入できない国も多く存在するが、そういった建築物にも塗るだけで耐震性を桁違いに上げることができる製品をつくることができたのは、鈴木氏が強いリーダーシップを発揮し、研究技術チームと一緒にプロジェクトを推進したからにほかならない。こうした産学連携の新規事業を成功させた企業や経営者に共通するのは、まずアトツギであること、そして多くの修羅場を突破してきた強いリーダーシップと新市場開拓の機会を積極的に取りに行くフットワークの軽さをもっていることだ。