カルチャー

2024.01.15 13:30

才能に甘んじることなく同質的社会のリアルを歌うELIONEがめざすもの

平和で同質的社会のなかで何を歌う?

ELIONEに、つくりだす楽曲を通じて何をしたいのか、どうやって創作をしているのかと矢継ぎ早に質問をすると、ラッパーらしく、あえて答えを避けるように素っ気ないこんな言葉が返ってきた。
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「もう覚悟は決まっているんで、迷いはないというか。曲もすぐに書ける」

いったい彼は何がしたいのだろう。

HIPHOPというと、犯罪や薬物などのテーマが多く、アンダーグラウンドなイメージもついていて、彼らもワルな人間なのではないか。そう思っている人も少なくないと思う。実際に悪いやつもいる。
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ただ、それでもなぜストリートのリアルな日常を、ラッパーは言葉に乗せて届けるのだろう?それは、もともとHIPHOPのカルチャーが大事にすることに、自らの仲間やコミュニティーがあるからだ。

仲間とともに過ごす日常を歌うことで、「オレらの日常ってなんてクールなんだ」と思ってもらったり、音楽を通して仲間に自己肯定してもらえたり、時に勇気が出て挑戦できるようになったり。だからこそ、リアルであることにこだわっているのだと思う。それが時に薬物や犯罪をテーマにする理由かもしれない。

またHIPHOPの本場であるアメリカでは、「人種差別」や「人権」の問題について歌うラッパーも多い。

では、アメリカと事情が異なる日本で、仲間のために歌うラップってなんなのだろう?

ELIONEの楽曲を聴いていくと、大きなテーマは日本的なことに明確にフォーカスしている。自分が日常の中で感じた漠然とした不安や怒り、悲しみ、恋人との思い出や別れ、仲間との楽しい日々や感謝などだ。

アメリカとはまったく異なる平和で同質的社会のなかで、ELIONE自身が感じたコミュニティーを共有する者たちに伝えるべきことが、彼でしかできない表現で結実している。

アテンションが大事と言われる昨今の世界で、ただ注意を引くためや、関心を煽るために、アメリカの真似をして、犯罪や薬物をテーマにするのは簡単かもしれない。

ただ、ELIONEはそういうことはしない。もっと等身大で、ある意味慎ましいリアルな気持ちを伝えている。日本に住む多くの人が平凡な日常のなかで感じている物語を、彼の視点で歌っているのだ。それも固い韻とメロディーを伴って。

音楽という「才能」で語られがちな世界で、彼は「才能」などに惑わされず、常に前を向いて動いている。私は、彼と話すといつも勇気付けられる。

もし「今年はどうすればいい?」と彼に訊いたら、きっとこう返ってくるのかもしれない。「As Usual、いつも通り行こうぜ」 と。向き合うべきは「才能」などという亡霊ではなく、「自分自身の努力」なのだ。


文・写真=小田 駿一

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