3.「みんなに成功ノウハウを教える」ほうが合理的
年間1億円の利益をあげている営業Aさんがいるとします。その会社にいるほかの営業メンバー10人は、1人500万円の利益しかあげていません。Aさんとほかのメンバー合わせて、部署全体の年間利益は1億5000万円です。通常の報酬制度の会社では、Aさんは自分の達成率が高ければ評価が高く、会社からも一目置かれて大事にされます。したがって、成功ノウハウは他人に教えず、自分だけのものにしていたほうが合理的です。しかし、会社が全社業績連動型報酬制度を導入している場合、そのままAさんだけが頑張っていても、自分の報酬もほかのメンバーの報酬も上がりません。
反対に、Aさんが1億円の利益をあげる仕事のやりかたを、社内のほかのメンバーにも教えてあげたとします。その結果ほかのメンバーも、1億円とまではいかなくても、1人5000万円の利益を出せるようになると、Aさんが出している1億円の利益に加えて5億円の利益が出て、会社全体の利益が6億円となります。
ここで全体利益の10%をみんなで山分けする場合、全体のパイが1億5000万円の場合と6億円の場合では、どちらの報酬が高くなるのかと考えると、当然後者のほうです。つまり、全社業績連動型報酬制度のもとでは、みんなに成功のノウハウを教えるほうが合理的なのです。
4. 「的確にマネジメントする」ほうが合理的
全社業績連動型報酬制度は、「管理職のマネジメント」においてもメリットがあります。たとえば社内に、手を抜いて仕事をしている社員がいるとします。その社員を上司が指導・教育する場合、多くの管理職は、あまり厳しく言うと「パワハラだ」「職権乱用だ」などと非難されることを心配するでしょう。そうでなくても、部下から嫌な顔をされてしまうので、できれば自分の評価にかかわるマネジメント以上のことはしたくありません。場合によっては「まあ、仕方ないか」と見て見ぬふりをしてしまうでしょう。
しかし、会社が全社業績連動型報酬制度を導入している場合、そんな社員を放置しておくことは難しいのです。周囲の人間から、「あの人が利益をあげないせいで、自分たちの報酬が上がらないじゃないか」「あの人はあまり頑張っていないのに、なぜあんなに報酬が与えられるのか?」と批判の目が向けられるからです。
通常の報酬制度のもとでは、そうした社員を「放っておく」ということも合理的でしょう。放っておいても、ほかの人たちの給与額に影響しないからです。しかし、全社業績連動型報酬制度では、そんな人を放っておくと、自分も含め社員全員の報酬にも影響してくるわけですから、その人の成果がもっと上がるよう、しっかりとマネジメントするほうが合理的、ということになります。
通常の報酬制度のもとでは、経営者と社員の双方が対立し、できるだけ低い目標を掲げたくなり、その目標を達成するために、能力アップではなく、人を増やそうとしてしまいます。その結果、1人1時間あたりの付加価値生産性が低くなり、利益も減り、低賃金になってしまうのです。あなたの会社も、そんな低賃金化の方向に向かう報酬制度になっていないか、もう一度見直してみましょう。
もちろん高賃金化を実現するためには、全社業績連動型報酬制度の導入だけでは不十分です。特に大きな組織では、さまざまな仕組みを一つひとつ緻密に組み上げる必要があることを覚えておいてください。