働き方

2024.01.10 17:45

【Web特別寄稿】日本が「高賃金化」を達成するために必要な4つの仕掛け

「1人1時間あたりの付加価値生産性」を高めなければ給与は上がらない

話をもとに戻しましょう。

前述したように、私は何とか店舗改善に成功したのですが、その結果、私の給与が一気に上がったか? というと、そうは問屋が卸しませんでした。

私は5000万円の売上向上に貢献したように見えます。離職損失の面でも、当時の採用費用から考えると、500~1000万円ほどの効果があったと思います。すごい成果だ! と思っていただけるかもしれませんが、これは私だけの努力による成果ではありません。

また、当時この会社は、50億円以上の売上がありましたから、5000万円の改善といっても、会社全体で見ると、わずか1%以下の改善にしかなっていないのです。

そんな状況で給与を大幅に上げることは不可能です。なぜなら給与とは、「1人あたりの付加価値生産額を、従業員に一定分配したもの」だからです。つまり会社全体の生産性を向上させなければ、給与は上がらないのです。

もし一店舗において「売上27%向上」「離職0」という状態に改善したことを「仕組み化」し、会社全体でも同じ成果を出せたとしたら、給与アップにつながったのでしょうか? それでもまだ微妙です。

では、どうすれば「会社全体の給与を上げる」ことができるのでしょうか?

そのためには、冒頭で述べたように、「最小の資本と人で、最大の付加価値を生み出す」というコンセプトのもと、「1人1時間あたりの付加価値生産性」を高めることが必要です。それができて初めて、「高収益」と「高給与」が同時実現し、全社員の給与アップが可能となるのです。売上が増えたとしても、人が増えて、会社として使うお金が増えてしまっては、「1人当たりの付加価値生産額」は増えず、給与も増やすことはできません。

「努力は報われる」のではなく「正しい努力で価値をつくれば」報われる

私はキーエンスでの経験と、その後の飲食店勤務の経験、そして両者の比較を通して多くの学びを得ました。「お客様に提供する『価値』の根源は『感動』である」という学びはその一つですが、もう一つ学んだ重要なことがあります。それは、「たとえ同じ労力、同じような仕組みであったとしても、『どこにどのような影響を与えるのか』によって、生まれる価値の大きさが変わってくる」ということです。

高収益を実現している企業の人たちは、常にお客様の仕事現場の細部を非常によく見ています。他社が見つけられない「お客様の困りごと」がどこにあるのか? を的確に捉えようとしているのです。キーエンスが常にお客様に高付加価値を提供できる秘訣は、その点につきると言っても過言ではありません。

ただし、「お客様の困りごと」を見つけられれば、飲食業でも超高収益企業になれるのかというと、そんなことはありません。これには、「企業(B)とエンドユーザー(C)の距離」も関係しています。

「価値の最小単位(感動)」を受け取るのは、いつも最終的なお客様(エンドユーザー)です。彼らが商品やサービスに感動し、「ありがとう」と言って、感動を与えてくれた相手にお金を払うことで、その商品やサービスに関連した会社に利益をもたらします。

飲食業では、目の前で食事をする(感動する)お客様から、直接お金を受け取ります。それはそれでたいへんありがたいことなのですが、ビジネス的に考えると、富裕層に対して高付加価値(=高額の料理)を提供しない限り、そこに莫大な利益が生まれることはありません。
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文=田尻望

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