働き方

2024.01.10 17:45

【Web特別寄稿】日本が「高賃金化」を達成するために必要な4つの仕掛け

当時27歳だった私は、飲食店経営に関する知識も人脈も乏しかったので、自分なりにさまざまな仮説を立てながら、店舗改善施策を3つだけのアイデアにしぼりました。その一つとして始めたのが、「1000人中、999人に無視される仕事」でした。それは、道端で看板を持って立つ「呼び込み」です。

そのエリアは競合店も多く、その店舗は少し路地の奥まった場所に位置していたので、人通りも少なく、あまり認知されていない状態でした。またウェブからの集客強化はすでに行っており、それ以上、集客のためのコストは上げられませんでした。

一方で、その店舗からほんの少し歩くと、ひと晩で約2万人、1ヵ月で約60万人が行き交う道がありました。そこで私は毎日その人通りの多い道に立って、呼び込みをすることにしたのです。

ちなみに私は当時、昼は社長のカバン持ち(秘書的活動)をしていたので、ずっとスーツ姿でした。ひときわ明るいLEDのついた看板を手に、ネイビーのスーツにネクタイを締めたビジネスマン風の男が、全力の笑顔と声で「個室居酒屋○○です! 個室空いてま~す! 今すぐ入れま~す!」と叫んでいたので、奇妙に思った人も多かったのではないでしょうか。

大阪梅田では、特定の人への声掛けは客引き行為として違反になってしまうので、空中に向かって声を出すことしかできませんでした。この呼び込みを、雨の日でもビニール傘を看板にかけながら(自分にはかけずに)続けたのです。

そのかいあってか、結果としてそれまでの推移より「売上27%向上」(年商2億円ほどの店舗だったので、年間約5000万円の改善)、そして「スタッフ離職0」という状態にすることができました。

先ほど、「店舗改善にあたって3つだけのアイデアにしぼった」と言いましたが、その3つとは、この「呼び込み」「店内のトイレ掃除」、そして「お客様のお出迎えとお見送り」です。私はこの3つだけを徹底して行ったのです。

過去と他人は変えられない

当時、私は社長(当時は専務)から任命してもらい、店舗の改善に来ていたわけですが、店長さんやスタッフさんから見たら、どう考えても、「本社から突然やって来た、やっかいな人」でした。しかも飲食業経験のないド素人です。

そんな人間が、自分が思いついたアイデアを、「店長、あそこで呼び込みしたほうがいいですよ。だってあそこには夜だけで2万人も歩いているんですよ」「店長、トイレ掃除を徹底しないとだめですよ。トイレが汚かったらお客さん来なくなっちゃいますよ」などと、指示だけしていたらどうなっていたでしょうか?

おそらく店長はスタッフに「本社の人が言っているから、やっといて」と指示し、命じられたスタッフは「なんでこんなことをしなきゃいけないんだ!」と、無表情で呼び込みをしていたでしょう。トイレ掃除も嫌々やったでしょう。その結果、呼び込み分のコストだけが増え、売上も下がるリスクが高まり、離職もさらに増えていたかもしれません。

当時、私が座右の銘にしていた言葉は、「過去と他人は変えられない。変えられるのは自分と未来だけ」、「やってみせ、言って聞かせてさせてみせ、ほめてやらねば、人は動かじ」(山本五十六の言葉)です。

何かを変えようとするなら、まず変わるべきは自分です。自分自身が一生懸命になっていないのに、何かが変わることはありません。そして、自分自身がやっていないのに、誰かが動いてくれるはずがないのです。
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文=田尻望

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