米財務省がインフレ抑制法のもとで提案したクリーン水素製造税額控除(Clean Hydrogen Production Credit)は、炭素をほとんど排出せずに製造された水素1kg当たり0.6ドル~3ドルの範囲で付与される。この税額控除は、天然ガスを原料とし、副産物のCO2を回収する「ブルー水素」よりも、水と再生可能エネルギーで製造される「グリーン水素」を製造する事業者の方にとってメリットが大きいものになるはずだった。
しかし、提案された規則には、CO2を排出せずに水素を製造した時間に対してのみ税額控除が付与される「タイムマッチング」の要件が含まれているため、最大3ドル/kgの付与を受けることは困難だ。また、この規則は、水素メーカーが既存の施設ではなく、新たなクリーン電力施設を利用することを求めている。
「これらの条件を鑑みると、実質的な税額控除額は全米平均で1kg当たり1ドル程度になると思われる。規則案を見る限り、水素に関して米国は欧州の後塵を拝すことになるだろう」と、グリーン水素と燃料電池の製造に用いられる電解槽のトップメーカーであるプラグ・パワーの社長兼CEO、アンディ・マーシュは話す。
マーシュによると、欧州はクリーン水素プログラムにタイムマッチングの要件を設けていないだけでなく、原子力などの利用を奨励し、水素製造施設の建設にかかる費用の支援額を増しているという。
ディーゼルエンジン大手カミンズのクリーン・パワー部門であるアクセラも、この規則案に批判的だ。「過度な要件は税額控除の効果を大幅に制限し、気候変動目標に向けた米国の取組みを停滞させるリスクがある。このガイダンスは、水素への投資を遅らせたり止めたりするものであり、バイデン政権による水素ハブ構想を含め、計画中の水素プロジェクトに悪影響を与える可能性がある」と、同社は声明の中で述べている。
宇宙で最も豊富にある元素である水素は、米国では既に石油精製や化学工業、食品加工などを中心に大量に使用されている。しかし、その大半は、天然ガスを分解して製造されており、その過程でCO2を大気中に放出している。電解槽の技術向上に加え 米国内で風力発電所と太陽光発電所の数が大幅に増えたことにより、CO2を排出せずにより多くの水素を製造することが可能になったが、そのコストは依然として高い。手厚い税額控除がなければ、製鉄や肥料製造、大型トラック輸送など、温室効果ガス排出の抑制を迫られている産業にとって、クリーン水素は魅力的な選択肢とはならない。
先月初めにリークされた最初の提案は、原子力や水力発電で製造された水素の位置づけを明らかにしていない。しかし、地下で自然に生成される地中水素は、税額控除の対象になると思われる。Kolomaなどの企業は、数年以内に地中水素の掘削を開始する予定だ。また、Equaticが開発しているような炭素削減技術の副産物として生成される水素も、税額控除が全額適用される可能性がある。