アジア

2024.01.11 15:00

イギリス人が見た「パレスチナと日本」

Forbes JAPAN編集部
近現代になって、状況はいっそう錯綜する。特に第一次世界大戦中の英国外交は、アラブにもユダヤにもトルコにも良い顔をする「三枚舌」として悪名高い。これがパレスチナ問題を解決不能な状態に追い込む大きな原因となった。第二次大戦後、英国の委任統治にあったこの地にユダヤ人がイスラエルを建国すると、事態はさらに深刻化。中東戦争だけでも4回勃発し、部分的な戦闘やテロは枚挙に暇がない。そして今回またも悲惨な戦争である。

パレスチナ地方の面積は、三重県と種子島を合わせた程度に過ぎない。だが、その動きはほぼすべての周辺国を巻き込んでいる。産油国もあれば核保有の可能性が高い国もある。これに欧米や中ロの利害が絡んでいるので、この地域の緊張は世界中を震撼させる。いちばん鈍感な国は日本だろう。

ロンドンでの昼食は、在日経験もある弁護士のアーサーに招かれた。私が「先の大戦から80年たつのに、日本はまだアジア外交に苦労している。彼らの反日感情は根強い」と言うと、彼は「日本はまだ良い。英国は世界中から嫌われている」とこぼす。

大英帝国時代の植民地政策は酷いものだった。民族同士を仲たがいさせ、平気で舌を使い分け、躊躇なく砲艦外交を展開する。そのツケが、香港であり、ミャンマーであり、中東である。今もって紛争と無縁ではいられない。

「先進国とは、常に紛争と対立を意識して生きていかなければならない存在だよ。その点で日本は先進国としての自覚が足りない。東アジアが第二の中東になる危険性すらあるのに」

昼食後、2人でグリーンパークを散策していると、にわかに外がかまびすしい。デモだ。群衆は赤三角に黒、白、緑のパレスチナ旗を手にしている。物々しい装備の警官隊が囲んでいる。公園内では外界の騒ぎなど露知らないように、鳩たちが無心に餌を啄んでいる。アーサーが皮肉っぽい笑みを浮かべた。「デモ隊と警官隊が国際社会。鳩たちが日本だね」。ふと日本のネットニュースを見る。トップ記事は芸能タレントの不倫問題だった。


川村雄介◎一般社団法人 グローカル政策研究所 代表理事。1953年、神奈川県生まれ。長崎大学経済学部教授、大和総研副理事長を経て、現職。東京大学工学部アドバイザリー・ボードを兼務。

文=川村雄介

この記事は 「Forbes JAPAN 2024年2月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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