パレスチナ地方の面積は、三重県と種子島を合わせた程度に過ぎない。だが、その動きはほぼすべての周辺国を巻き込んでいる。産油国もあれば核保有の可能性が高い国もある。これに欧米や中ロの利害が絡んでいるので、この地域の緊張は世界中を震撼させる。いちばん鈍感な国は日本だろう。
ロンドンでの昼食は、在日経験もある弁護士のアーサーに招かれた。私が「先の大戦から80年たつのに、日本はまだアジア外交に苦労している。彼らの反日感情は根強い」と言うと、彼は「日本はまだ良い。英国は世界中から嫌われている」とこぼす。
大英帝国時代の植民地政策は酷いものだった。民族同士を仲たがいさせ、平気で舌を使い分け、躊躇なく砲艦外交を展開する。そのツケが、香港であり、ミャンマーであり、中東である。今もって紛争と無縁ではいられない。
「先進国とは、常に紛争と対立を意識して生きていかなければならない存在だよ。その点で日本は先進国としての自覚が足りない。東アジアが第二の中東になる危険性すらあるのに」
昼食後、2人でグリーンパークを散策していると、にわかに外がかまびすしい。デモだ。群衆は赤三角に黒、白、緑のパレスチナ旗を手にしている。物々しい装備の警官隊が囲んでいる。公園内では外界の騒ぎなど露知らないように、鳩たちが無心に餌を啄んでいる。アーサーが皮肉っぽい笑みを浮かべた。「デモ隊と警官隊が国際社会。鳩たちが日本だね」。ふと日本のネットニュースを見る。トップ記事は芸能タレントの不倫問題だった。
川村雄介◎一般社団法人 グローカル政策研究所 代表理事。1953年、神奈川県生まれ。長崎大学経済学部教授、大和総研副理事長を経て、現職。東京大学工学部アドバイザリー・ボードを兼務。