この全く想定外の事故が発生し、3人の生命が絶体絶命の危機に直面した状況において、管制センターの誰もが途方に暮れ、極めて悲観的な心境になっているとき、この管制センターの首席統括官であった、ジーン・クランツは、危機におけるリーダーとして、どう処したか。
彼は、主要スタッフを対策室に集め、まず、黒板に、月と地球、その途上のアポロ13号の位置を書き、そのアポロ13号が地球に戻る線を力強く描き、信念に満ちた言葉で、次のように語った。
「我々のミッションは、彼ら3人を、生きて地球に帰すことだ!」
そして、彼は、その後、昼夜を問わず、スタッフのすべての智恵と力を結集し、考え得るあらゆる方法を用いて、数々の困難な問題を解決し、遂に、3人を地球に生還させることに成功する。
この映画のクライマックス・シーン、3人の乗った司令船が、大気圏に再突入するときの場面は、最も感動的である。スタッフたちが、「もし、遮熱板が剥がれていたら彼らは焼け死ぬ」「もし、突入角度が少しでも浅ければ、彼らは、大気圏外に跳ね飛ばされ、宇宙の彼方に消えることなる」「これは、NASAの最大の危機だ」といった悲観的な状況を語るのに対して、クランツは、胸を張り、明確に言い切る。「そうではない。これは、NASAにとって、最大の快挙になる!」そして、彼の言葉通り、アポロ13号は、奇跡的に、地球への生還を果たす。
これが、後に「輝かしい失敗」(Successful Failure)と称賛されたNASAの伝説的エピソードであるが、この映画は、実話に基づくものであり、このリーダーの姿も、実際のエピソードである。
されば、ここで、一つの問いが心に浮かぶ。「この事故対策の中心人物であるジーン・クランツは、この絶体絶命の危機を脱する運気の強さを持った卓抜なリーダーであったが、果たして、彼は、いかにして、その運気を引き寄せたのか」
この問いに対して、世の中一般の運気論は、「クランツのリーダーとしての楽観的な信念、ポジティブな想念が、運気を引き寄せた」と論じるだろう。もとより、筆者も、著書『運気を磨く』の中で、ポジティブな想念が良い運気を引き寄せると語っているが、実は、危機においてリーダーが運気を引き寄せるためには、もう一つ、不可欠の条件がある。それは、「いかに困難な危機であっても、その危機を乗り越えるために、あらゆる打ち手を、徹底的に打ち尽くす」ということである。