逆に、物事に中途半端に処するだけで、全身全霊で力を尽くすということをしない人間、その気根を持たない人間は、どれほど心の表面で「事態を楽観する」という努力をしても、心の深層で「エゴの不安」が蠢き、そのネガティブな想念が邪魔をするため、決して良い運気を引き寄せることはできない。
昔から、「人事を尽くして、天命を待つ」という言葉が語られるが、この言葉の意味は、「人事を尽くしたならば、後は、天命を待つだけだ」という素朴な意味ではない。その真の意味は、「人事を尽くした人間だけに、天命が降りてくる。そして、我々を導く」ということに他ならない。
世の中では「ポジティブな想念を持てば、良い運気を引き寄せる」という心理技法が安易に語られるが、実は、そうした技法で良い運気を引き寄せる人は多くない。そして、それには明確な原因がある。「天は、自ら助くる者を、助く」との言葉は真実。危機に処するリーダーが運気を引き寄せたいならば、見つめるべきは、この言葉の深みであろう。
田坂広志◎東京大学卒業。工学博士。米国バテル記念研究所研究員、日本総合研究所取締役を経て、現在、21世紀アカデメイア学長。多摩大学大学院名誉教授。世界経済フォーラム(ダボス会議)専門家会議元メンバー。全国8000名の経営者やリーダーが集う田坂塾塾長。著書は『運気を磨く』『教養を磨く』など100冊余。