米国で加速するサブスク動画離れ、エンタメの新潮流とは


一方、SVODの出現以前から、ケーブルや衛星放送を使い米国版WOWOWを成功させていた米有料ケーブル局HBOやSHOWTIMEは、従来の配信インフラは維持したままで、定額動画配信サービス(VOD)にも参入。J-COMやスカパーのようなケーブルや衛星放送を介さず、直接消費者にサービスを届けるD to C(Direct to Consumer)モデルへの移行を図った。
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しかし、D to Cの定額制動画配信サービスを始めたことで、契約者を維持しやすいケーブルや衛星以上にCAC(顧客獲得コスト)が増加。さらにサブスク制の契約は、解約が容易でLTV(顧客生涯価値)が低下しやすいため、契約者当たりの収益性は低い。契約者の伸びを読み間違えたために経営方針の修正が必要となり、結局はケーブルと衛星放送への卸価格を下げざるを得なくなるなど、戦略が裏目に出てしまったのだ。

予測される米メディアの大変動

このように米国のメディア・エンタメ企業は、今後数年間、非常に厳しい経営環境に追い込まれることが確実視されている。競合に勝つために大量に投資したオリジナル番組製作費やスポーツ中継ライセンス料が経営を脅かし始め、企業価値も低下しつつある。特にSVOD事業に参画しているNetflix, Amazon, Appleなどの大手では営業資金を調達するために発行して来た債権の返済期限が迫っており、総額で、2024年から3年かけて383.5億ドル、479.4億ドル、743億ドルのペイオフする必要があるという。

2020年にM&Aで売却されたメディア・エンタメ企業の平均EBITDA倍率(買収にかかるコストを何年で回収できるかを示す値)は18倍、2023年では10倍に低下、業界の資産価値が44%も減少したとも言え、健全経営で定評の高いディズニーでさえ、虎の子のABC放送の売却の話がでており、スポーツ放送で盤石な地位を維持して来たESPNグループでは、長期の安定経営の為にNFLやNBAなど主要スポーツリーグに株を分割譲渡することも検討されているという。

70年以上、優位性を維持して来た米メディア・エンタメ産業は、デジタル化による視聴やAIの登場により、24年、ビジネスモデルの変革を迫られる大きな岐路に置かれている。日本では、ケーブルや衛星放送を解約してSVODに乗り換える大きな動きはまだ見られていないが、米国から5~7年遅れて波が来る日本市場は、今後どのように対応すべきだろうか。戦略構築には、米産業の動向から目が離せない。

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