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2024.01.07

母の愛と、自他への愛。愛する本質を知ることが貢献

各界のCEOが読むべき一冊をすすめるForbes JAPAN本誌の連載、「CEO’S BOOKSHELF」。今回は、ヒューマンバリュー代表取締役社長の兼清俊光が「愛するということ」を紹介する。 


「愛する」とはどういうことなのか。母の生得的な愛を思い起こす人もいれば、一目惚れしたときのような突然の感情を思い浮かべる人もいるでしょう。

本書はいわゆる恋愛のハウツー本ではなく、ドイツの心理学、哲学の研究者エーリッヒ・フロムが、愛することは「技術である」として、「愛するとはどのような能力なのか」「どのようにすれば身につけられるか」を示唆的にまとめたものです。発行から70年近くたった今でも多くの人に読み継がれているのは、明確な答えを出せない人が多いからなのかもしれません。

私が本書を読んだのは、三十数年前。私の両親、特に母はとても愛情深い人で、人のためになることが生きがいのような人でした。私にも100%の信頼を寄せてくれていて、例えば、やんちゃな小学生時代、つまらない授業を抜け出して遊んだりするたびに学校に呼び出された母は、私を叱ることなく、「あなたの素晴らしさに先生はまだ気づかないのね。あなたは大人になったら世の中に役立つ人になる。先生たちにはまだそれが見えていないのね」と、悲しそうに言い続けていました。ひとりの自立した人間として私の存在を認め、信じてくれる──当時の私はそれを愛だと気づかず、当たり前のことだと受け止めていましたが。

社会人になってそれほどたたずに母は他界。私はあらためて、自分が生涯をかけてチャレンジしたいのは何かを考えさせられました。行きついたのは、「自らの人間性を高めること」と、母がしてくれたように「すべての人がもっている可能性をひらく支援をしていきたい」ということ。そのタイミングで、本書と出合い、ヒューマンバリュー現会長の高間邦男と出会えたのは必然だったように感じます

ヒューマンバリューは、人、組織、社会によりそい、学びを通して、未来につながる今を共にひらくことをミッションに、人材開発や組織変革に関する研究開発と実践を行っています。1985年に創設して以降、より高い成果の創出や組織変革、人の学習支援に向けて、学習する組織の調査研究をはじめ、ポジティブ・アプローチ、ホールシステム・アプローチなど先駆的な取り組みを行ってきました。現在も、組織変革やエンゲージメントなどを通じて人の可能性をひらき、より良い組織を構築していくためにお客様と協働し、新しい価値を共創していく活動をしています。

社員やお客様など出会ったすべての人の存在を尊重し、お互いを積極的に気にかけ、寄り添いながら、昨日よりも今日、自分が貢献できることは何かを考え、ともに変化し、成長していく。これが、今の私の「愛するということ」への答えかもしれません。

title/愛するということ
author/エーリッヒ・フロム(著)鈴木 晶(訳)
data/紀伊國屋書店 1430円/212ページ
profile/1900─1980年。ドイツの社会心理学、精神分析、哲学の研究者。フロイト以後の精神分析を現実の社会に適合させたことで知られる。生産的な生活と人道主義により人は幸福になれると説いている。代表作は『自由からの逃走』など。


かねきよ・としみつ◎1991年よりヒューマンバリューにて、人材開発と組織変革に現場の知識や経験を取り入れた変革プロセスをデザイン、実行している。大規模組織の全体変革等、多くの事例で知見を生かしたその支援は、経験、社会からの呪縛を解き放つ目的意識を持つ。

文=内田まさみ 写真=タワラ

この記事は 「Forbes JAPAN 2024年1月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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