フランス国立科学研究センター(CNRS)の惑星天体物理学者パトリック・ミシェルは、ニース天文台にある自身のオフィスで筆者の取材に応じ、文明を崩壊させる規模の地球近傍天体の衝突については、今後1億年間は心配する必要はないと語った。
ミシェルによると、地球への脅威となるかもしれない小惑星は、全て140m以下で、文明を崩壊させる規模のものは1つもないという。このサイズの天体が衝突する頻度は、平均で1万年に1回だ。つまり、私たちが生きている間に、このサイズの天体が地球に衝突する可能性は極めて低いということになる。ゼロではないが、ごくわずかだと、ミシェルは指摘する。
ミシェルによると、小惑星の密度と速度にもよるが、もし全長140mの小惑星がフランスのニース沖に衝突すると、南仏コートダジュール(フレンチリビエラ)全体が崩壊する可能性が高い。だからこそ、しっかりとした計画を立てておく必要があるのだという。
対策は前進中
米航空宇宙局(NASA)は2022年、直径約160mの小惑星ディモルフォスに、無人探査機を衝突させて軌道を変える、二重小惑星軌道変更実験(DART)を成功させた。ディモルフォスは、直径が約780mとより大きい小惑星ディディモスを公転している。DARTは期待を上回る成果を上げたが、2024年10月には、欧州宇宙機関(ESA)が、DART後のディディモスとディモルフォスを調査するミッションとして、探査機「Hera(ヘラ)」を打ち上げる予定だ。Heraは2027年初めにこの二重小惑星とランデブーする見通しだ。
Heraの研究責任者を務めるミシェルによると、今回の軌道変更実験結果を基にその他のシナリオが推定できることを確かめるには、DARTの衝突効果の評価に必要なディモルフォスの質量を測定しなければならない。DARTから分かったこととして、衝突実験前に小衛星ディモルフォスが主天体を1周するのにかかる時間は11時間55分だったが、実験機を衝突させた後、この軌道が33分だけ短くなった。DARTが軌道を変化させたことで、公転周期が短縮したと、ミシェルは説明する。