人間中心の設計
スペインのマドリッド工科大学でロボット工学の博士号を取得した37歳のガリアナは、十数年前にハーバード大学に移った。ハーバード・バイオデザイン・ラボの創設者であるコナー・ウォルシュとチームを組み、柔らかい外骨格スーツの構想に着手した。「エンジニアはハリウッド映画に出てくる外骨格装置に魅了されることが多い。大きく、強く、そしてカッコイイものにしたがるのです」とウォルシュは言う。だが、その興奮が大きな成果をもたらすには至っていないとガリアナは言う。ガリアナとウォルシュは、ハイテクロボットを設計して人間に装着させるのではなく、人体がどのように機能するかを研究し、特定の困難な作業をよりうまくこなすために役立つハイテク機器を設計したいと考えた。
2012年に米国防総省の研究部門である国防高等研究計画局(DARPA)から5年間の助成金を受けて、2人は兵士が重いバックパックを背負って困難な地形を長く歩けるようにするための設計に取りかかった。また、脳卒中患者のリハビリに役立つウェアラブル装具も開発。初期のこの2つのプロジェクトでは、負担を増やすことなく30〜40%ほど多くの仕事をこなせるようになる人間中心の設計を目指した。「人間の動きや歩きは非常に効率的で、一度に少しのエネルギーを加えるだけで大きな助けになります」とウォルシュは言い、これを背中に追い風を受けて走ることに例えた。
ハーバード大学在籍中、ガリアナは倉庫にも足を運び始めた。そこでは何百万人もの労働者が、毎日数え切れないほどの荷物や重量物を扱っていた。ガリアナはすぐに、それがいかに大きな問題であるかを認識した。「それまでは歩行に焦点を当てていました。そこで新しいプロトタイプを開発し、数人の作業員に装着してもらいました」。
ガリアナは「スペインのエナジャイザー・バニー(米電池メーカーのマスコットのウサギ)」だと、サファルのマネージングパートナーであるアルナス・チェソニスは評する。「ガリアナは止まらない。私たち投資家は、ADD(注意欠如障害)で仕事中毒のCEOを非常に好む」と話した。
チェソニスの紹介で、ヴァーヴ社はニューヨーク州ロチェスターにあるウェグマンズの倉庫作業員用の新しいプロトタイプを開発し、実地テストを行った。ガリアナはすぐに、食料品倉庫で働く平均的な作業員が1日に合計2万kgもの商品を持ち上げていることを知った。アホールド社で長年働くある労働者は、2021年8月に求人サイトのインディードに「仕事そのものは身体的にはかなりきついが、金にはなる」と投稿した。「働けるのは、身体が参ってしまうまで」とも書き込んだ。
産業労働の人手不足と、人間の能力の限界まで処理スピードを求める消費者に応えるため、アマゾンやウォルマートなど小売各社はロボットを活用した倉庫の自動化を進めている。一方、StrongArm Technologies(ストロングアーム・テクノロジーズ)やModjoul(モジュール)、Voxel(ヴォクセル)といったスタートアップは、作業員の安全性の問題を解決しようとしている。
倉庫作業員が行う細かな選別・梱包作業は自動化が最も難しい作業のひとつだが、ヴァーヴ社はここに注力している。同社は重量の軽減に関して他社と異なるアプローチをとる。「これは一種のスマートウェイトベルト」と、2年前に同社に投資したコンストラクト・キャピタルの共同創業者であるデイナ・グレイソンは言い、「人間の体を補強してくれるものだ」と指摘した。