1960年代末から1970年代初めにかけて実施された米航空宇宙局(NASA)の有人アポロ計画で、月面に置き去りにされた物(人の排泄物、旗、ゴルフボールなど)は、地球上で普及している「リーブ・ノー・トレース(Leave No Trace、跡を残さない)」の考え方が月には存在していない証拠だと、研究チームは見なしている。また、アポロ由来の名所は保護されるべきだとも、研究チームは考えている。
「月の人新世」を認定することで、1959年に打ち上げられた旧ソ連の無人探査機ルナ2号から始まった人類の活動が、月面に重大な影響を与えているのを認めることになると、研究チームは主張している。ルナ2号以降、100機以上の探査機・宇宙船が月を訪れている。
英科学誌Nature Geoscienceに掲載された、今回の研究をまとめた論文によると、今後ますます多くの月探査計画が発表される状況にある中で、今こそ新たな地質年代を宣言すべき時だという。
月の人新世
「月の人新世」の考え方は、人類が地球におよぼしてきた影響の大きさを探究する「地球の人新世」に基づいている。論文の筆頭執筆者で、カンザス大のカンザス地質調査所の博士課程修了研究者、ジャスティン・ホルコムは「地球では、数十万年前であれ1950年代であれ、人新世は過去のある時期に始まったというのは、誰もが認めるところだ」と話す。「私たちは、同様に月でも月の人新世がすでに始まっていると主張しているが、人類の活動によって発生する、月を覆う顕著なハロー(拡散された月の塵)が計測可能になり、取り返しがつかなくなるまでに、重大なダメージやその認識の遅れを未然に防ぎたいと考えている」