一方で、私が住むハワイでは、軽登山の人気観光スポット、ダイヤモンドヘッドで2022年5月から事前予約制を導入し、さっそく効果が表れているようだ。オーバーツーリズム解消の成功事例として紹介したい。
ハワイのシンボルで2022年から予約制導入
ハワイを象徴する景色といえば、ワイキキビーチで海水浴を楽しむ人々が映るワンシーンだろう。その背景にそびえ立つのが、ダイヤモンドヘッドだ。数十万年以上も前に起きた噴火によって形成された山で、中央部分はクレーターになっている。ワイキキから車で10分ほどの位置にあり、なおかつ、標高はわずか約230m。急斜面などはなく、片道30~40分程度で頂上までたどり着ける。頂上からは、ワイキキの街やビーチはもちろん360度の大パノラマを望めるため、たまらない爽快感を味わえるのだ。子どもから大人まで楽しめるアクティビティで、満足度が高く、アクセスのしやさすさでも文句がない観光スポットであることから、富士山ほどではないにしろ、毎年多くの観光客が押し寄せる場所で、コロナ前には1日6000人が訪れたこともあった。
そんなダイヤモンドヘッドで、事前予約制が導入されたのは、2022年5月のことだ。それまでは、開園時間の間ならいつでも好きな時間に訪れて登山できたのだが、あらかじめ予約しなければならなくなった。これは、登山客の混雑を緩和することが目的だ。
予約サイトでは、訪れたい日付と時間を選ぶ。これによって入山する人の数を制限できる。おまけに、予約時に1人5ドルの入園料の支払いをクレジットカードで済ませるため、当日に現金やカードを持っていく必要や、チケットの支払いに時間がかかることもない。観光客にとっては、天候に関わらず事前に予約する手間はかかるが、当日はこれまで以上にスムーズに利用しやすくなっただろう。
予約制導入で表れた2つの効果
このダイヤモンドヘッドの予約制が始まって1年以上が経ち、その効果が見えてきたようだ。まず1つ目が、登山に訪れる人が分散されたことだ。予約サイトでは、登山客が日付とあわせて入山する時間を1時間単位で選ぶシステムになっている。そのため、1日に訪れる人数はおよそ3000人で予約制を導入する前と変わらないにも関わらず、午前6時の開門から午後6時の閉門まで、登山客が満遍なく訪れているそうだ。混雑が緩和されたことが関係するのか、脱水症状、足首の捻挫、骨折などといった、登山客からの救急サービスの要請件数も減ったという。ホノルル救急医療サービスの統計によると、予約制導入前の2019年には、76件の救急要請があったが、導入後の2022年5月から2023年5月の1年間では、40件と半減。ホノルル消防署に寄せられた登山客の救助要請も、2019年の36件から2023年は18件まで、半分に減少した。