11月24日に開業された麻布台ヒルズに、日本ベンチャーキャピタル協会(通称JVCA)をはじめ、独立系VCや大企業が母体となるコーポレート・ベンチャー・キャピタル(CVC)といった40社以上が入居する大規模VC拠点「Tokyo Venture Capital Hub」が設立された(最大入居想定は約70社)。本施設は森ビルが運営主体となり、「スタートアップの成長に欠かせないリスクマネー供給の拠点として、日本経済活性化の起爆剤となることを目指す」というビジョンを掲げている。
伸び悩むスタートアップ投資を支援する大規模拠点
2022年に内閣府 科学技術イノベーション推進事務局が発表した「スタートアップ・エコシステムの現状と課題」によれば、スタートアップへの年間投資額は米国35兆円に対して、日本は0.8兆円。米国ではスタートアップ投資額が指数関数的に増大するなか、日本ではいまだ漸増に過ぎない状況だ。こうした背景もあり、Tokyo Venture Capital Hubはスタートアップの成長に欠かせないリスクマネー供給の大規模拠点となることを目指している。Tokyo Venture Capital Hubは会員VCらが集うワークラウンジスペースを有し、“学びと共有の場”として交流会やピッチイベントを開催して“学びと共有の場”を創設。また、虎ノ門ヒルズに居を構える日本最大級のスタートアップ集積地「CIC TOKYO」やインキュベーションセンター「ARCH」、11月に経済産業省が米国・シリコンバレーに設立したばかりのスタートアップ支援拠点「Japan Innovation Campus」を含めたコミュニティネットワークの構築など、ハード・ソフトの両面でスタートアップ投資のサポートを謳う。
11月28日にはTokyo Venture Capital Hubの開会式典が開催され、森ビル代表取締役社長・辻󠄀慎吾の挨拶に始まり、来賓として東京都知事・小池百合子、JVCA会長・郷治友孝、経済産業大臣・西村康氏(当時)が祝辞を述べた。
開会挨拶として壇上に上った辻󠄀は、「東京を世界から選ばれる都市にしたい」という森ビルの思いとともに、麻布台ヒルズのテーマである「Green&Wellness」、人と人をつなげる広場のような街というコンセプトを説き、Tokyo Venture Capital Hubから新たなムーブメントが生み出されることへの期待感を語る。森ビルは先述の「CIC TOKYO」「ARCH」「Japan Innovation Campus」を手がけており、スタートアップ・エコシステムの形成に注力を続けている。シリコンバレーにあるVC集積地「Sand Hill Road」を引き合いに出しながら、「日本初のユニコーン企業はここから生まれていると言われるよう、そして、この一帯が国際新都心として東京や日本の発展に貢献できるよう、全力でこの街を育んでいきます」と力強く語った。
小池は、Tokyo Venture Capital Hubが「東京の企業はもちろん、地方とスタートアップの資金調達をサポートすることで、日本全体の成長を牽引してほしい」と期待を寄せる。小池は何事にも“心技体”が重要だとし、“心”はスタートアップの人々がもつ大いなる心意気、“技”は世界に打って出るような技術やサービスだと説明。そして、“体”こそがリスクマネーの供給やエコシステムであり、これがスタートアップ企業の血肉となって成功へと導かれると結び、Tokyo Venture Capital Hubが心技体の連携を果たすことにより、ユニコーン企業を生み出す拠点になってほしいとエールを送った。
Go Globalで世界を目指す“大変革の時”へ
麻布台ヒルズは、緑豊かなランドスケープと別世界のように広がる超高層ビルが共存を果たしている。郷治は、この光景に触れながら、建築自体がVCやCVCの目指すエコシステムを表現しており、自然の中で人々が触れ合うことで新しいアイデアやイノベーションを育む環境になるだろうと評する。JVCAと森ビルの取り組みは09年に始まり、13年より「日本のベンチャーキャピタル拠点を東京に作ろう」というコンセプトでCIC TOKYOやARCH、Tokyo Venture Capital Hubを生み出してきた。郷治は24年秋には20カ国以上のベンチャーキャピタル協会が集まる国際会議「グローバル・ベンチャーキャピタル・コングレス」の開催も企画していることを明かし、スタートアップエコシステムの発展への手応えを語った。最後に登壇した西村は、まずJapan Innovation Campus開催時に訪れた世界有数のスタートアップアクセラレータ「Berkeley SkyDeck」でのエピソードを語った。カリフォルニア大学バークレー校が手がけるBerkeley SkyDeckでは、現在30人弱の日本の起業家が挑戦を続ける一方で、現地関係者からは「日本にはスタートアップやベンチャーがあまりない」と指摘されたという。これに対して、西村はソニーやトヨタ、パナソニックも最初はスタートアップ企業であり、現在もソフトバンクグループ会長兼社長の孫正義や楽天グループ創業者の三木谷浩史を輩出してきたと反論。ここ10年を見ても国内では約1,000社がIPOを果たしていることを挙げ、「スモールサクセスで満足せず、GO Globalで世界を目指してほしい。今は“大変革の時”であり、スタートアップ企業に新しい未来を率いてもらいたい」と激励の言葉を送った。
それぞれの祝辞からは、Tokyo Venture Capital Hubにかける期待の大きさがうかがえ、列席したVCメンバーの眼にはより強い火が点っていた。世界的に加速するスタートアップ・VCの中心地として、Tokyo Venture Capital Hubが多大な存在感を発揮していくことを期待したい。