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2024.01.22 11:00

遺志を継ぐ森を、次世代のロールモデルへ。江戸ワンダーランド日光江戸村が「里山」をつくるわけ

江戸の街並みを再現したカルチャーパーク「江戸ワンダーランド日光江戸村」(以下、江戸ワンダーランド)が、周囲の森を「里山」へと作り替えようとしている。その背景は単なる環境保全には止まらない、里山から生まれる新しいムーブメントを予感させるものだった。

江戸の入り口は「明るい森」

武家屋敷に商家街といった江戸の街並みを、髷を結った町人や侍などの「江戸人」が行き交う。栃木県・日光市の江戸ワンダーランドは江戸時代の衣食住が再現され、江戸文化に浸ることができるカルチャーパークだ。

国道をはずれ、のどかな景色の先に見えてくるパークは、周囲を森が囲む。印象的なのは、施設の入り口となる関所を過ぎた街道左の森が「明るい」ことだ。紅葉のハイシーズンが過ぎたとはいえ、森の木々は適度に間伐され、陽光が地面まで降り注いでいた。

「今日はキツツキが鳴いていました。ようやく基礎ができて、少しずつ生命の多様性を感じられるようになってきたんですよ」。運営元である時代村の社長、ユキ リョウイチは感慨深そうに森に視線をやった。

ニコル氏が20年4月に逝去してからも活動を続け、23年12月にはニコル氏が設立したアファンの森財団(長野県・信濃町)と、相互に情報交換などを行う「姉妹森」を締結。

では一体なぜ、江戸ワンダーランドが、里山なのか。

江戸が100万人都市になれたのは、里山があったから

「世界で人口100万人を最初に突破したのは、江戸だと言われているんです。その江戸を、エネルギーや食糧面で支えていたのが里山だった」。ユキは江戸と里山の関係をこう説明した。
江戸ワンダーランドを運営する時代村のユキ リョウイチ社長

江戸ワンダーランドを運営する時代村のユキ リョウイチ社長

ニコル氏もその関係を重視していたと話すのは、アファンの森財団の理事長で、長年にわたりニコル氏のマネジャーを務めた森田いづみだ。ニコル氏は生前、江戸を体現するパークだからこそ、周囲の森は里山であるべきだとユキに説いていたという。
 
「落ち葉を堆肥にしたり、山菜採ったりと、里山は生活の中で欠かせないもので、経済とも結びついていた。ニコルはエコノミーとエコロジーの『エコ』は同じなんだと言っていました。里山が現代の都市圏の生活者にとっては身近な存在とはいえなくなっても、今のニーズを発掘する必要があるともね」(森田)

一方で、林野庁によると日本の国土は7割が森林で、そのうち4割を戦後の国策で大量に植えられたスギやヒノキなどの人工林が占める。そうした人工林は多くが放置されている現状があるとユキは指摘する。「ニック(C.W.ニコルの愛称)はこうした有様をほっとけなかったから、作家なのに、森づくりを始めたんですね。僕は、環境を守ることを想念ではなく、現実に生きている彼に衝撃を受けて、教えを受け継いできたんです」
アファンの森財団の森田いづみ理事長

アファンの森財団の森田いづみ理事長

里山から世界へムーブメントを起こす

ニコル氏が手掛けたアファンの森も、もとは40年以上放置され、荒れ果てた「幽霊森」だった。間伐によって木々の間に風と光を通し、野生動物のためにヤマブドウやアケビは残すといった森づくりに着手したのは1986年。今では森は多様な木々が繁り、83種以上の鳥、500種類以上の昆虫が見られる環境へと回復し、長野県内で絶滅の恐れがある動植物も70種見られるようになった。「アファン」とは、ニコル氏の生地ウェールズの言葉で「風の通るところ」を意味する。財団では森林整備のほかにも、企業向けの研修プログラムや子どもたちへの環境教育を実施している。

アファンの森に学んだユキは、江戸ワンダーランドから発信したいのは、文化と歴史、観光、それから教育だと話す。来夏にもアファンの森財団ら関係者の協力のもとで、全国から子どもたちを呼ぶサマースクールを計画している。こうした計画を構想する上で、重要なのは“時間の捉え方”だという。「計画を50年、100年を単位として見据えてやる。多くの経営者にとっても、やりがいある事業はこうしたタイムスパンで生まれていくものじゃないかと思います」

一方で、気候危機などの影響による環境保全は待った無しの状況もある。2030年までに陸と海の30%以上を健全な生態系として保全しようとする「30by30」が定められ、目標達成に向けて国を挙げて活動が進められている。それに加え、環境省による調査で、動植物の絶滅危惧種が集中して生息・生育する地域のおよそ半数は、里山や里地なのだとの報告もある。

進展する気候危機を受け、経済のシステムも方向転換を求められているのが現状だ。ユキは「資本主義に限界が来たと言われて、それが見直され、経済の新しいあり方を模索しようとする世の中の動きがある。そんな今の模範となる一つに、江戸時代があるし、それを支えた里山があるんじゃないかと思うんです」と話す。

江戸と里山といった時代を支えたエコシステムを有する江戸ワンダーランド。文化や歴史、教育、観光を対象に、むしろこれからの時代が倣うべき新たな仕掛けをいかに作れるかが、今後のチャレンジとなっていく。「ニックは僕の中で伝説になっちゃいましたけど、社会にとってはまだ伝説にしちゃいけない、必要な存在です。ほったらかしの人工林をどうするかというのは、むしろチャンス。新しいムーブメントをこの森から発信していきたいんです」(ユキ)

森田は、企業にとっての「森のニーズ」も変わってきていると指摘する。

「コロナ禍を経てオンラインが主流になった今、社員への環境教育だけではなく、コミュニケーションの活性化も期待されるようになったんですね。日常ではない森の空間を歩いたり、その中で作業をしたりすると、新しい関係が生まれて、それがもとの関係を活性化させるんですよ。森に入ると気持ちがいいですし、こうした人間への良い効果は医学的に証明されているものもある。これからの時代のニーズに応じられるポテンシャルを、まだまだ森は持っているんですよ」


アファンの森財団と江戸ワンダーランドの「姉妹森」の調印イベントは12月2日、ユキと森田の同席のもと、江戸ワンダーランド内で執り行われた。アファンの森財団が姉妹森を締結するのは、ウェールズ、北海道・富良野に続いて3番目となる。

イベントでは、プロジェクトの第1弾で2017年に地元の子どもたちと共に植樹したエドヒガンなど4種50本の桜のうち、当時ユキとニコル氏が共同で植えたエドヒガン1本が園内に移植された。残りも順次、園内に移し替えていくという。

協定書への調印式は、時代村のスタッフ「江戸人」ら100人強を集めて行われた。調印後、江戸人を前に森田は「ニコルは、日本は世界でも稀なほど自然が豊かで、それを利用するための知恵や技術を生んだと言っていました。江戸はそうした素晴らしい技術があった時代。ぜひ誇りを持って仕事をして」とメッセージを贈った。

その後、ユキは展望と共にこう式を締め括った。「姉妹森の締結は、ますますの社会貢献をしていける第一歩です。ニコルさんは日本中にアファンの森を広げたいと言っていた。ほったらかしのスギ、ヒノキの森を手入れして、減らして、森が文化施設になり、歴史の証言者になり、教育機関となっていくロールモデルを江戸ワンダーランドが率先して、日本中、アジアに見せていきたい」

江戸ワンダーランド日光江戸村
https://edowonderland.net/


ユキ リョウイチ◎株式会社時代村 代表取締役社長 将軍。1972年、東京都生まれ。大学卒業後、世界のさまざまな国を旅して20代を過ごす。その後、稼業の日光江戸村に戻り、カルチャーパーク・EDO WONDERLAND 日光江戸村をつくり上げる。2011年、時代村代表取締役社長に就任。

森田いづみ(もりた・いづみ)◎一般財団法人C.W.ニコル・アファンの森財団理事長。1956年千葉県生まれ。1984年テレビ番組制作およびタレントマネージメント会社に入社し、C.W.ニコルを担当し、北極やアフリカなどでキャンプ生活を共に体験。環境保護活動にも積極的に参加し、アファンの森財団設立に関わる。2020年C.W.ニコル・アファンの森財団の理事長に就任。

Promoted by 時代村 / text & edit by Asahi Ezure / photographs by Yutaro Yamaguchi (一部、時代村提供)