「TSMCでの過去30年間は、私にとって特別な旅だった。このような世界的有名企業で、伝説的な創業者であるモリス・チャン(張忠謀)博士の後任として会長を務められたことは光栄だった。私は今、家族との時間を増やし、人生の次のチャプターを始めたいと考えている」とリュー会長は声明で述べている。
リューは1993年にTSMCに入社し、同社創業者のモリス・チャンが引退した後の2018年に会長に就任した。台湾チップ産業の父と呼ばれるチャンは、TSMCを世界最大の先端半導体メーカーに育てた功績が広く認められている。
リューの後任もまた、社内からの登用となる。TSMCの現副会長で最高経営責任者(CEO)のシーシー・ウェイ(魏哲家)が取締役会の承認を得て会長に就任する予定だ。
ウェイは1998年にTSMCに入社し、2017年から取締役を務めている。台湾の国立交通大学で電気工学の学位を取得した彼は、米イェール大学で博士号を取得した。
台湾の新竹市に本社を置くTSMCは、調査会社IDCによると世界のチップ供給の半分以上を占める世界最大の半導体ファウンドリ企業だ。アップルやNVIDIA(エヌビディア)などの主要サプライヤーである同社の時価総額は4850億ドル(約69兆円)に急騰し、アジアで最も価値のある企業となっている。
ウェイは、TSMCが人工知能(AI)チップの世界的な需要増に対応するため、ドイツ(ドレスデン)や日本(熊本県)、米国(アリゾナ州)など海外へ生産拠点の拡大を進めているタイミングで、同社のトップを引き継ぐことになる。中国との地政学的緊張の中で、TSMCが海外進出を推進するのは、サプライチェーンの集中を防ぎ、リスクを軽減するためと受け止められている。しかし、TSMCは今後も製造の大部分と最先端チップの生産拠点を台湾に置くと述べている。
3月に行われた貴重な公の場での講演で、TSMCの創業者チャンは、国家の安全保障に対する懸念の高まりが、企業のグローバル化を脅かしていると述べていた。
「チップの分野では、グローバリゼーションは死んだ。自由貿易は、死んだとまでは言わないが、危機に瀕している」と、台北で開催された業界イベントで彼は語っていた。チャンは、サプライチェーン全体を米国にシフトすることは、コスト高につながり、チップ市場の成長を妨げると述べていた。
(forbes.com 原文)