決して広くはないが天井が高く、たくさんの花の絵や写真で飾られた店内で、アイコニックなパールのネックレスをしたマリアさんがきびきびと動く。開店と同時に満席のなか通されたのは、入り口からは見えない奥まったテーブル。「マフィアシートだね」と3人は笑う。
イタリア野菜であるチコリのサラダ、プンタレッラのサラダ、ダックハムに舌鼓。そして、シェアすべく頼んだボッタルガのサラダに手をつけそびれていると、「絶対にイタリア語しか話さない」マリアさんが「食べてないじゃない」と言わんばかりにレモンを搾り、オリーブオイルを和えて、美味しそうに仕上げてくれた。
藤原が、「来月からどこでランチをしたらいいのか……。ミラノに来る理由がひとつなくなってしまった。落ち着いたらぜひ東京に」と寂しさを伝えると、マリアさんは「あなたに会いに行くわ」と笑顔を見せた。フェー曰く、しばらくは、店の名前やレシピ、その他一式を売るべく忙しくなるそうだ。
店内には老若男女、大型犬を連れた客もいて、これから食事をする人、会計する人とで混み合っていたが、イタリア人の気質だろうか、店の雰囲気がそうさせるのか、誰一人イラ立つ様子はなく、焦らず、明るい空気に満ちていた。「行くとだいたい誰かに会う」と言う藤原は、帰り際にイタリア版「GQ」の元編集長と再会していた。
ちなみに、連日食事をともにしたフェーは、「もともとはスイスに住む彼の叔父さんと繋がっていて、学生の頃から知っている仲」なのだという。藤原は昔から、相手の年齢や職業に関係なく交友関係を広げてきた。彼のブランド「OAMC」ともコラボしているように、「長年の友達と10年後、20年後に一緒に仕事をしたりする」という循環を、「種まきみたいな」と言って微笑む。
短いミラノ滞在中、到着した夜はモンクレールの仕事を共にするデザイナー、ファッションや都市のプロモーターらと会食。次の夜には、たまたまミラノに出張に来ていた仕事関係者が藤原の宿泊するホテルを訪れ、共通の友人でもある同ホテルのGMも交えて“雑談”を楽しんでいた。
ラッテリアを惜しむ話に始まり、ハイブランドの値上げ、企業のCSV活動のような真面目な話、それぞれのプロジェクトの近況、人を繋いでもらえないかという相談まで。それは彼が東京のカフェやレストランで過ごす時間と変わらない。別れ際には必ず「Let's keep in touch.」と言っていた。
藤原はまた1月と3月にミラノに出張予定がある。変わらぬ友人と、その時はどこでランチをするだろうか。