欧州

2023.12.21 10:30

EU裁判所、ロシア富豪アブラモビッチの訴え棄却 制裁は「正当」

2016年12月19日、ロシア大統領府(クレムリン)で経済界の代表との会合に出席した同国の大富豪で実業家のロマン・アブラモビッチ(Getty Images)

2016年12月19日、ロシア大統領府(クレムリン)で経済界の代表との会合に出席した同国の大富豪で実業家のロマン・アブラモビッチ(Getty Images)

欧州連合(EU)司法裁判所の一般裁判所は20日、ロシアのウクライナ侵攻を巡って科されたEUの制裁に異議を唱えていたロシアの大富豪ロマン・アブラモビッチの訴えを棄却した。

ルクセンブルクにある同裁判所は、アブラモビッチがロシアで最も多くの税金を納めている企業の1つである鉄鋼大手エブラスの大株主であることから、EUがアブラモビッチを影響力のある実業家として制裁対象に加えたのは正当だと判断。アブラモビッチの資産を凍結し、EU域内への渡航を禁止する制裁を支持した。また、制裁は自身の権利を侵害しているというアブラモビッチの主張を退けるとともに、風評被害に対する損害賠償請求も棄却した。

ロイター通信によると、原告の代理人は、アブラモビッチが判決に失望していると説明。「ロシアを含むいかなる政府の意思決定にも影響を与える能力はなく、(ウクライナ)戦争から利益を得たことなど断じてない」と言明し、アブラモビッチがロシア政府から恩恵を受けたという考えを否定した。

今回の判決を不服として上訴することもできるが、アブラモビッチの今後の対応については今のところ分かっていない。代理人は、EU理事会が提示したアブラモビッチの制裁対象入りを支持する複数の論点について、裁判所は考慮していないと指摘した。「アブラモビッチ氏に対する制裁を維持するという裁判所の決定は、裁判所が純粋にアブラモビッチ氏を『ロシアの実業家』と定義したことに基づいている。これは今日の極めて広範なEU規制の下では、たとえ戦争とは無関係の事業部門の単なる受動的株主に過ぎなかったとしても、制裁を継続するには十分だということだ」

アブラモビッチは、ウクライナ侵攻を巡りEUを含む西側諸国から制裁を受けた数多くのロシアの著名人の1人だ。西側の政府が科す制裁の多くは渡航禁止や資産凍結を含んでおり、ロシアの要人に対する圧力を強め、同国政府の財源を締め付けることを目的としている。

EUは制裁を科した際、アブラモビッチはロシアを代表する実業家であるとともに「ロシア連邦政府の実質的な収入源」だと指摘。さらに、アブラモビッチは「クリミア併合やウクライナの不安定化に責任を負うロシアの意思決定者」とのつながり、とりわけウラジーミル・プーチン大統領との「長く密接な関係」から利益を得ており、それによって「かなりの富を維持する」ことができたと主張した。アブラモビッチはプーチン大統領が推し進めるウクライナ侵攻から利益を得ていることを強く否定しているが、英政府からも標的にされ、最終的には20年近く所有していた英サッカー・プレミアリーグの強豪チェルシーの売却を余儀なくされた。

フォーブスは、アブラモビッチとその家族が所有する資産額を90億ドル(約1兆3000億円)相当と推定している。資産の多くは、鉄鋼大手エブラスと金属大手ノリリスク・ニッケルへの出資から得られるもので、アブラモビッチはロシアで最も裕福な人物の1人となっている。

forbes.com 原文

翻訳・編集=安藤清香

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