生成AIが苦手な「共感」を人間の創造の中心においていくことに主眼を置く。このトランスクリエーションを軸に言語、地域、文化、市場、世代などの差異をなめらかに乗り越えてコピーやデザインとして表現するプロフェッショナルがいる。株式会社 morph transcreation 代表の小塚泰彦だ。
博報堂退社後、英国ロイヤルカレッジオブアートで学び、これまでApple、Google、Panasonic、Yamahaなど数多くのグローバル企業と共にトランスクリエーションを実践してきた。直近の例で言うと三井住友トラスト・グループのクリエイティブディレクターとしてブランドスローガンをIBMと策定した。
「トランスレーション」 を行なってきた翻訳業界も「AI時代に鍵となるもの」としてトランスクリエーションに注目している。2024年以降の、すなわち、AI時代の人間の創造性に光を当てるキーワードとなるトランスクリエーションについていち早く学びたく小塚氏に話を伺った。
伺う内容は、トランスクリエーションとは何か? 生成AI時代に人間が紡ぐ言葉の価値についてなど、AIと共に生きる時代の言葉の紡ぎ方、トランスクリエーションの必要性が中心だ。
2023年12月、小春日和の午後、麻布十番のスタジオで小塚氏のインタビューを行った。暖かい日差しの中で、簡単な挨拶の後に小塚氏が「能を稽古しているんです」と控えめに自己紹介を締め括った。英国で学び、グローバル企業を相手に仕事をする氏に、AI時代の言葉のあり方を伺うインタビューの冒頭で、日本の伝統芸能にも言及されたので、未来と/グローバルの広がりと/歴史へのタイムマシンと、さまざまな時空を超えるインタビューになる予感に胸が躍る。
日本の古典芸能を知ることが小塚氏の仕事にどのようにリンクしているのかは追って紹介していく。
美大大学院ではデザイン理論を専攻し原研哉氏に師事、就職した先の博報堂ではコピーライターとしてキャリアをスタートした小塚氏の、言葉とデザイン、どちらも扱うクリエイターになった経緯は以下の通りだ。
小塚:「高校時代は授業そっちのけで哲学に熱中していました。世界を解釈する概念を知ることができる哲学に感化されて、ひと通りの古典をはじめ、柄谷行人氏や浅田彰氏、フランス現代思想にかぶれていました。そんな私が大学でデザインという概念に触れたときに哲学とデザインの重なりを感じたんです。いずれも世界をリフレーミングするところが似ていると思いました」