「父が京都のマツダのディーラーに勤めていた関係で、うちは2年に1回くらいのペースでクルマを替えていました。クルマに慣れ親しむ環境はあったと思います」
1967年に世界で初めて量産化に成功し、マツダの技術力のシンボルとなったロータリーエンジンの魅力も、毛籠は少年時代に体験していた。「オイルショックの時、父が灯油でエンジンを動かしていたんです。ロータリーエンジンはすごい雑食性で、灯油でも回っちゃう。とんでもないエンジンだなあ!と子どもながらに思いましたよ」
それから半世紀。「父と同じ業界に挑戦してみたい」と入社したマツダで毛籠は、数々の業績を上げ、今年6月に社長のバトンを受けとった。創立100周年の2020年がコロナ禍と重なる不運に見舞われたものの、「人馬一体」を標榜するその操作性、デザインへのこだわりなどでブランドイメージを確立してきたマツダの業績は堅調さを維持している。
「コロナ禍後、全体としては売り上げも収益も回復し、直近の上半期でいいますと、グローバルの小売りで対前年比20%、特に北米では40%改善しています」
自動車業界で今後の成長の鍵となるのはやはり、脱炭素への取り組みだ。マツダは今年春にカーボンニュートラル・資源循環戦略部を新設するなど、世界的なニーズに応える体制を整えている。
その一方で「EVシフトに対しては『意志あるフォロワー』のスタンスで行く」と宣言。右へならえのEVシフトにはなびかない。
「今後、バッテリーEVが世界的に有力になるとしても、電動化への移行期については、各国の政策、電池の調達コストからお客さまの需要まで、変動要因がたくさんあります。そんななかで、方向性を一つに絞ってそこに賭けるのは、リスクが大きすぎると思います。
我々がもっているクルマづくりの資産は非常にバラエティに富んでいますし、EVシフトに関しては、技術的な準備はしておくけれど、実需を見ながら展開スピードを決めていきます、と。これが『意志あるフォロワー』の考え方です」