「April Dream」は、プレスリリース配信事業を展開するPR TIMESが2020年から継続してきた、4月1日に夢を発信できる場を提供するプロジェクト。普段なら恥ずかしくて言えないけれど、実現したらワクワクするような「夢」を思い切って口にすることで、挑戦する勇気が湧いたり、思わぬ出会いに巡り合ったりするかもしれない。夢で、未来をつくる。そう信じてPR TIMESが提唱する新たな発信文化だ。
2023年4月1日に同プロジェクトで夢を発信した参加団体から、10社がApril Dream特別賞の候補に選出された。中でも、プレスリリースの配信をきっかけに新しい協業プロジェクトが動き出すなど、目覚ましい飛躍を見せたのが岡崎製材だった。
夢のプレスリリースによって「社内外にもポジティブな意識の変化が起きている」と語るのは、現社長・八田欣也のアトツギとして奔走する5代目・八田壮史。彼がプレスリリースに込めた夢と、その先に見据えるヴィジョンについて聞いた。
自然のデザインをとことん愛し、適材適所で活かしていく
1917年に創業し、100年の歴史を有する岡崎製材。住宅資材の販売・卸を主軸に、不動産、リノベーション、エクステリア、薪ストーブまで「建築と住まい」にかかわるあらゆる事業を展開している建築総合企業だ。同社が業界の中でも異質な存在感を放つ理由のひとつは、世界中の銘木を取り扱っていること。愛知県内にある8つの自社倉庫には、一流の目利きが世界中から仕入れた多種多様な無垢材150樹種、計5万点以上が管理されているという。日本一の木材保有量を誇り、針葉樹・広葉樹を問わない膨大なバリエーションの中から顧客の要望に応えている。
「私たちが大事にしている考え方に“Nature Design”というものがあります。自然はデザインする──つまり、自然物のデザインはすべて自然が創り出したものであり、その個性をとことん愛して大切にすることが私たち材木屋の使命だと考えているんです」
木材の市場において、節や割れ、穴などは“欠点”とみなされ、欠点のあるものは安く売買されてしまう実態がある。しかし、岡崎製材は違う。
「歪だっていい、曲がっていてもいい。通常では見向きもされない“規格外”な木材であっても、『どこか活かす場所はないか』と考え提案する。木をとことん愛する私たちだからこそ、できることがあるのです」
そんな同社のフィロソフィーが反映されている事例に「HAZAI® project」がある。家具や建材を製造する過程で余ってしまう“端材”は通常、経済合理性の観点から廃棄されてしまうことが多い。しかし、岡崎製材が扱う木材は高級銘木など一級品ばかり。たとえ端材であっても品質が優れていることに変わりはない。
「まだSDGsが今ほど浸透していない2017年から、廃棄処理ゼロを目指して端材を使った製品開発を始めました。たとえ小さくても、形が歪であっても、生活雑貨として新たな命・価値を吹き込む。父であり、社長の八田欣也は『木を活かし、人を活かす』という考え方を持っていて、私もそこに強く共感しています。例えば、人間であればそれぞれに得意・不得意があって当然ですよね。木も同じで、適材適所でそれぞれの個性を活かした使い方がある。木を活かすことで事業の幅を広げ、結果的に従業員にものびのびと働ける環境を提供したいという思いを持って実践しています」
「木の復権」を実現させることが、私の代の使命
岡崎製材の5代目となる八田壮史は、創業家に生まれながら事業承継にはまったく興味がなかったという。大学時代にバックパッカーとして世界中を旅したことで大きく視野が広がり、「世界の最前線で国益に資する仕事がしたい」と思うようになった。卒業後は日本郵船に入社し、国際物流営業や国際輸送ソリューションなどに携わりながら、グローバルな舞台で力をつけてきた。
「とてもやりがいのある仕事をしていたのですが、心が動いたのは2017年のことです。岡崎製材が創業100年を迎えたことを知り、シンプルに『すごいな』と感じたのがきっかけでした。100年続くのには確たる理由があるし、地域に貢献してきた証でもある。そして、自分自身が充実した人生やキャリアを歩んでこられたのも、この会社や地元の存在があるからだと気づき、岡崎製材を承継することで恩返しをしたいと思った。一念発起して、地元へ戻ることを決意したのです」
こうして2019年に入社した“アトツギ”は、先代が守ってきた価値観を大事にしながら、次の100年に向けて新たな夢を描きはじめた。今年初の試みとしてApril Dreamに参加し、試行錯誤の末に完成させた夢のプレスリリースにはこんなタイトルを記した。
“日本一ワクワクする材木屋に成長し、『木の復権』を実現する”
「『木の復権』は、あるときから4代目がよく使い始めた言葉です。日本では戦後から高度経済成長期を経て、生活のあらゆる場面で木が失われていった背景があります。山が開拓されて街がつくられていったという空間的な意味でもそうですし、身の回りのあらゆるモノの素材が木材からプラスチックや合成金属などに取って代わられてきた歴史がある。
技術革新によって世界は多くの恩恵を受けてきたわけですが、近年では行き過ぎた工業化に違和感を持ち、環境問題に向き合う人や企業が増えていますよね。脱プラやカーボンニュートラルへの関心も高まる中で、木の価値を見直す動きもある。もちろん、すべてを木製にすればいいという話ではありませんが、木の特性や個性を生かせる場面はまだまだあるはずです。『やっぱり木っていいよね』と多くの方々が気づき、実際に生活に取り入れ使ってもらうことが、5代目である私の使命だと思っています」
夢のプレスリリースをきっかけに地元石屋とコラボが実現
八田壮史がこうしたヴィジョンを夢のプレスリリースに託して発信したことには、さまざまな狙いがあった。「ひとつには、“社外”に対して『岡崎製材が何者であるのか』というブランドイメージを伝えることが目的でした。木材を日本一保有する全国でもトップクラスの材木屋であることを、まずは知ってもらいたかった。April Dreamという影響力のあるプロジェクトで思いを発信すれば、多くの人に届けることができるだろうと考えました。
そしてもうひとつは、インナーブランディングの視点です。自分たちの存在意義や目指すべき世界、それに向けてチャレンジしていることを“見える化”することで、会社のヴィジョンを社内に浸透させることができるのではないかと思ったのです。
アトツギである私が書いたプレスリリースによって、『当社代表(現社長)の意志を受け継ぎ、未来につなげていく』というメッセージを社内外へ向けて伝えることができたと感じています」
この夢のプレスリリースをきっかけに奇跡のコラボレーションも実現。同じ岡崎市にある稲垣石材店との連携で新しいブランドが誕生した。
「稲垣石材店の4代目である稲垣遼太さんは同じ中学校の出身で以前から顔見知りだったのですが、夢のプレスリリースを見てもらえたことで、同じ無垢材である石を使って新しい価値を創出しようと模索していた彼の思いと私の思いを共有することができたんです。まさに、見える化・言語化が強固なタイアップにつながったと感じています」
『木と石の価値・魅力を世界に届ける』ことを目的として、木と石が一体になった食器「Ki+Seki-木石-」を共同開発。クラウドファンディング(Makuake)に挑戦した結果、プロジェクトスタート日に目標を達成し、10月20日のプロジェクト終了時には達成率691%を記録した。
「一般販売も開始し、大きな反響をいただいています。企業や地元の飲食店からオーダーメイドでの発注を受けることも増えていますし、東京の飲食店からも問い合わせがきている状況です。材木屋と石屋の思いがカタチになったこの商品を、一人でも多くの人の手に届けていきたいです」
地域性と地球規模の視点を持って「ワクワク」を生み出す
April Dream特別賞を受賞し、夢の実現に向けて一歩ずつ歩みを進めている岡崎製材。今後の展望について聞くと、八田は「とにかくワクワクを広げたい」と目を輝かせた。「当社は愛知県岡崎市に位置していて、どこまでいってもローカルに根ざした企業です。だからこそ、地域と密着して、地域を元気に、ワクワクさせることが大きな存在意義だと思っています。そのために、まずは『ワクワクしながら働く人』を増やしたいという思いがありますね。楽しそうにチャレンジしている人には自ずと求心力が生まれて、どんどん仲間が集まってくる。私自身もそういう存在でありたいと思いますし、岡崎製材から岡崎市や三河地域にワクワクを届けていきたいです」
求心力のある存在になりたいと語る八田だが、すでにその片鱗を見せている。2025年に就航予定の新造客船「飛鳥Ⅲ」の船内に、岡崎製材が保有する木材の採用が検討されているというのだ。飛鳥Ⅲは日本郵船グループの郵船クルーズ株式会社が建造する外航クルーズ客船。まさに彼が持つ求心力が引き寄せた縁だ。
「岡崎製材の木材が世界中を旅していく姿を想像すると感慨深いです」
グローバルからローカル、そしてグローカルへ──。地域性と地球規模の視点を併せ持った岡崎製材と5代目・八田壮史の挑戦から目が離せない。
「April Dream特別賞」最終選考一覧
・いしい茶園・UMAMI UNITED JAPAN
・うみらぼ
・NPO法人S.O.L.
・岡崎製材
・SAMI Japan
・一般社団法人全日本ピアノ指導者協会
・「第九のきせき」in欧州実行委員会
・やまがBASE
・吉寿屋
April Dream
https://prtimes.jp/aprildream/
はった・そうし◎愛知県出身。慶應義塾大学卒業後、日本郵船に入社。国際物流営業や国際輸送ソリューションに携わる。その後、大手不動産会社を経て実家の岡崎製材に入社。現在は経営企画室 室長として事業継承に向けた経営戦略の策定や、新規プロジェクト起ち上げ、新サービス・商品開発、マーケティングなど幅広い業務を行う。