田淵:実は石田さんと出会う前から、ファイナンスの視点で地方のビジネスに興味を持っていました。欧米で注目されつつある投資の概念に、「プレイスベースドインベストメント」や「プレイスベースドインパクト投資」と呼ばれるものがあります。
コロナで地域間及び地域内格差の拡大が顕在化したことで広がり、ポジティブなローカルインパクトと適切な財務リターンを追求する投資で、特に地域においてさまざまなステークホルダーとビジョンを共有しながら必要な投資を行い、地域内で相乗効果を生み出す投資の概念です。まさに石田さんが手がけているプロジェクトが近しく、大きなポテンシャルを感じたんです。
実際に野沢温泉も訪問しましたが、ニューローカルが手がけている宿泊施設やバーの世界観に圧倒されましたし、長い歴史によって育まれてきた地域特有の文化にも興味を持ちました。都会では失われてしまった、人々が互いに助け合うコミュニティが醸成されていて、まさにこういった感覚がこれからの社会に必要なのではないかと。
石田:経済性や効率ばかりを追求しがちな都会に対して、地方ではもっと本能的に『ここに住みたい』という楽しさやあたたかい繋がり、ダイバーシティがある。個人的にそういった感覚が好きですし、その文化と経済性が無理なく成り立っている状態を作りたいんです。
──こうした街づくりのモデルケースはあるのでしょうか。
石田:イタリアにブルネロ クチネリという高級カシミア製品を作るブランドがあります。彼らはただビジネスを拡大するのではなく、人間主義的資本主義を掲げ、荒廃していたソロメオ村の古城をリノベして本社を作り、地域の雇用を生み出し、教会や劇場、図書館、学校を作り、ブランドの成長とともに村の再興を行いました。地元の人々は、理想のワークライフバランスを実現していて、幸せな人生を謳歌しているといいます。
ここに限らず、特に歴史の長いヨーロッパの国々では、急成長することなくじっくりと幸せの在り方を醸成しているモデルが存在します。日本は戦後、急に成長して、急に萎んでしまったので、定常的な状態を経験していません。だから、新しく作り出す余地がある。ブルネロ クチネリのような事例を参考にしながらも、事業展開やファイナンスなどを洗練させ、再現性のある日本モデルを作れれば理想ですね。