ソフトバンクは2021年5月に、事業活動で使用する電力などによる温室効果ガスの排出量を実質ゼロにする「カーボンニュートラル2030」を発表。2030年度までに、通信事業に必要な電力のすべてを、非化石証書を含めた100%再生可能エネルギー化することを目指し、そのうちの50%以上を追加性のある再生可能エネルギーで調達することを目標にしている。
(※この再生可能エネルギーは「追加性」があり、新たな再生可能エネルギー発電設備の増加を促す効果がある。)
また、ソフトバンクの得意分野であるAIやIoTなどの最先端テクノロジーを活用し、自社の施設・設備の省電力化を図っている。
23年3月期の決算発表では大型再生可能エネルギー調達契約の締結、さらに通信事業に必要な電力を将来的にすべて再エネで調達するという目標を発表。これを受け同年4月、代表取締役 社長執行役員 兼 CEO 宮川 潤一の直下組織として、グリーントランスフォーメーション推進本部(以下、GX推進本部)を設立した。
同本部 GX企画部にて部長を務める浅田 健(以下、浅田)は「再生可能エネルギーを最適活用する仕組みを構築し、日本のGX市場を牽引する企業を目指す」と話す。
電力多消費企業として温室効果ガス排出削減に取り組む
電力通信会社というイメージが強いソフトバンクだが、エネルギー事業においても大きな実績を誇る。ソフトバンクの親会社であるソフトバンクグループがエネルギー事業をスタートさせたのは、11年。東日本大震災に福島第一原子力発電所の事故を受け、現在のソフトバンクグループ代表取締役会長 兼 社長執行役員孫正義が「安心・安全で永続的に供給可能な新たなエネルギーが必要だ」と感じたことに起因する。
その後、再生可能エネルギー発電事業を行うSBエナジー(現 テラスエナジー)、クリーンで安定的な電力供給を目指すBloom Energy Japanを設立するなど、グループ全体でエネルギー事業の領域を拡大。
また、20年10月、政府が2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにすることを宣言したことを機に、事業で使用する総電力量の半分以上を占める携帯電話基地局のCO2削減の取り組みを開始。SBパワーが供給する実質再生可能エネルギーによる電気を購入することで、22年度には電力の約70%を実質再生可能エネルギーに転換した。
「ソフトバンクでは16年の電力小売り全面自由化に伴い、モバイルとセットで利用できる『ソフトバンクでんき』の提供をはじめ、21年には契約者数が200万件を突破しました。また20年からサービスを開始したソフトバンクでんき専用の『エコ電気アプリ』により、日本ではじめてアプリを通じてお客さまに節電を呼びかけることが可能に。ゲーム感覚で楽しみながら節電を可能にしたことで、アプリを使用しているお客さまが気軽に省エネに貢献できるのが大きなメリットといえます」
同社はすでにエネルギー事業において数多くの実績を上げているが、今なぜGX推進本部が設立されたのか。その理由を、浅田は次のように語る。
「我々は電力多消費企業として、再エネへの切り替えによって温室効果ガスの排出削減を行う責任があります。また、デジタル化社会が進展するなかで、生成AIなどが普及し大量のデータ処理に多くの電力が必要となることが予想されます。こうした状況下で事業運営を円滑に進めていくために、大量の電力を確保しながら、同時にカーボンニュートラルを達成する必要がある。この取り組みを加速させるため、宮川社長直下の組織としてGX推進本部が設立されました」
電力確保とカーボンニュートラルの同時達成を目指す
ソフトバンクではSDGsを推進するための重要課題の一つとして「テクノロジーのチカラで地球環境へ貢献」という目標を掲げている。この実現に向け、浅田は「GX推進本部には2つの役割がある」と話す。「まず1つ目は、自社で使用する電力を再生可能エネルギーに切り替えること。2つ目は自社における再エネ化の仕組みを事業化することです。GX推進本部では再エネの安定確保を重要課題としています」
具体的な取り組みとして、通信事業で使用するすべての電力に相当する、年間20億kWhの再生可能エネルギーの調達を、すでに20年間の長期契約で締結。加えて、26年度の開業を目指し、北海道内の再エネを100%利用する、地産地消型のグリーンデータセンターを北海道苫小牧市に設立する予定だ。
このデータセンターでは、データの処理と電力の消費を全国に分散する、ソフトバンクの次世代社会インフラ構想の要となる「Core Brain(コアブレイン)」を構築し、将来的には受電容量が300MW超まで拡大する見込みとなっている。
浅田は、「再エネを有効活用する仕組みの構築も重要な課題」だと語る。
「再エネが余る時間帯には蓄電池に貯め、不足する時間帯には放電するなど、我々の強みであるAIやビッグデータ分析の能力を活用し、余剰分をコントロールすることで再エネの最適活用ができる仕組みの構築を目標に掲げています。その一環として、蓄電池の遠隔充放電の操作を行うシステムを開発し、基地局の蓄電池を活用した制御実験を開始しました。
最終的には自社の電力を再エネ化するだけでなく、事業として企業さまのエネルギーに関する課題に対し、ソリューションをご提供できるようにしていきたい。そのためにはまず足元をしっかり固めることが大切だと思っています」
社長直下の部署であるGX推進本部は、社内外ともに注目度も高い。社会的課題に正面から立ち向かう事業だけにプレッシャーも大きいのでは、という問いに、浅田は「やりがいがある」と目を輝かせる。
「24年3月期の決算発表時にも宮川が『DXとGXは両輪で進めていくべきだ』と話していましたが、まさにその通りだと思っています。AIが普及する世の中で、データ処理に必要な計算能力が急増していくと、それに必要な電力も増えていきます。その結果、莫大に電力が必要となった際、その電力が化石由来では持続可能とは言えません。また、電力が不足してしまうことにもなってもいけない。
だからこそ、需要家である我々が自ら電力を確保することが重要であり、同時にカーボンニュートラルを達成していく必要がある。プレッシャーはあるものの、これらができた際の社会的な意義を含め、非常にやりがいのあるものと感じています」
既存の枠にとらわれず、多角的な視点から社会課題に挑戦し続ける
GX推進本部の執行役員本部長を務めるのは、東京電力で幹部として経営企画に長く携わった経験を持つ中野明彦(以下、中野)。SBパワー 代表取締役社長 兼 CEOに加え、エネルギーIoTプラットフォーム事業を行うソフトバンクの子会社であるエンコアードジャパンでも代表取締役社長 兼 CEOを務める、エネルギー関連におけるスペシャリストだ。「ソフトバンクにおけるエネルギー事業で総指揮をとる中野が事業のトップであることは、メンバーにとってとても心強い存在となっています」
同本部は浅田が部長を務める「GX企画部」のほか、水素などの新技術の調査や出資、経営層から直接指示を受けプロジェクトを推進する「GXプロジェクト推進室」、エネルギーマネジメントシステムの技術の企画・開発・運用を行う「ソリューション開発部」など全5つの部署で構成されている。
専門性が必要とされる本部だけに経験豊富な人材が集結しているのかとたずねると、意外にもエネルギー関連で業績を積んできた人材ばかりではないという。実際、浅田も入社当時はソフトバンクBB(現 ソフトバンク)でCS事業に従事していた。
「私自身、電力関連の仕事に携わることになったのは、11年に当社でエネルギー事業が立ち上がった際にメンバーになったタイミングでした。当時はエネルギー事業がこれほど拡充していくことはまだ見えていなかった時代でしたが、社会的意義のあることに携われることには、やりがいを感じていました。
現在GX推進本部のメンバーには、部署のミッションに共感し、自ら手を挙げて異動してきたものが多く在籍しています。経験がなくとも、既存の枠組みに捉われずゼロから立ち上げができる、また変化の速いエネルギー業界で迅速・前向き・柔軟に適応できるメンバーが集まっています」
今後の展望について浅田は、「国内だけでなく、海外の取り組みにも目を向け、グローバル基準で事業を進めていきたい」と語る。
「再エネへの取り組みは日本の企業でも取り組んでいますが、海外に比べるとその規模はまだまだ小さいと言えます。海外の大手IT企業などでは、日本とは比べられないほどの規模の再エネを確保しており、新しい技術への投資も進んでいます。そういった部分にも目を向け、カーボンニュートラルと事業成長を両立させる必要があると感じています」
ソフトバンクが掲げる重要課題の一つ「テクノロジーのチカラで地球環境へ貢献」を目標に掲げるGX推進本部。その取り組みは始まったばかりだが、グリーンエネルギーを軸とした次世代インフラの構築に向け、着実に歩みを進めている。