異業界から「参入」した代表の朝倉禅と横田侑に、そのたくらみと現代アートへの想いを聞いた。
「この5年で、中国の人々のライフスタイルはぐっと豊かになり、現代アートの位置づけが変化しているのを感じます。投資目的ではなく、生活を豊かにする存在として現代アートが求められていると思います」と「A4ギャラリー」(以下「A4」)代表の朝倉は話す。
中国・アジアにおいて日本の現代アート作品の評価は高く、需要はあるものの、作品が紹介される機会はまだ少ない。そこで日本の現代アーティストを発信するアートギャラリーとして、2021年に「A4」を立ち上げたという。
朝倉は中国・北京を拠点にヘアサロン事業やプロモーション事業を手掛けて約20年になる。アートとは異なる業界に身を置いてきたが、“その時代に求められる、日本の良いものや魅力をアジアに届ける”という意味においては「A4」と共通している。そして何より、10代の頃にはロンドン芸術大学セントラル・セント・マーチンズで学んだほど根っからのアート好きだ。
そんな朝倉が「A4」設立当初からタッグを組むのが、知人を介して知り合った横田だ。横田もまたセールスやコンサルティング業を中心に豊富なキャリア経験を持つ。朝倉は台湾・中国を拠点にキュレーターとして、横田は日本を拠点にマーケターとしての役割を主に担い、二人三脚で運営している。
取材日、北京に滞在していた朝倉は異業種コンビの強みをこう語る。
「従来のアートビジネスの手法に捉われないところです。アートは人の心を豊かにする素敵なものだから、より多くの人たちに届けたい。でもアートに対して敷居を高く感じている方、まだなじみのない方は大勢いるはず。そういった方々に、いかに知ってもらうかは、業界を知らない私たちだからこそ、風穴をあけられるかもしれない」
一方で、東京オフィスを管轄する横田は「アート業界にイノベーションを起こしたい」と熱く語る。事務所兼アーティストの新しい発信の場として機能するここは、今、アート界隈でも注目を浴びる麻布台ヒルズから歩いてすぐの場所にある。
「アートを見て、嫌な気持ちになる人っていないでしょう? だからアートの世界をもっと広げて、日常に落とし込みたい」。
一般的に、ギャラリーはアート作品や美術作品を収集し、展示・販売を行う場を指すが、「A4」の取り組みはその範疇にとどまらない。アートにつながる導火線を様々な切り口であちこちに仕掛けているのだ。
お遍路さんにも「アートの導火線」を
「A4」らしい画期的なアイデアのひとつが、2022年に台湾のギャラリー来場者に配布した「トレーディングカード」だ。16名の現代若手アーティストの作品をそれぞれ1枚ずつプリントしたトレーディングカードは、大きな反響があったという。
「日本の現代アートが好きな方の中には、日本のサブカルチャーに興味を持つ方も多いんです。サブカルチャーの象徴的なアイテムがトレーディングカード。そこでその2つを掛け合わせてみたのです」と朝倉。
2022年以来、ずっと継続して続けている企画となり、今ではトレカを目的に友達や家族連れでギャラリーに来る人も。SNSで多くの人がアップしてくれるなどA4を代表するプロダクツになったという。
ほかには、AR技術を用いた仕掛けで来場者がアート作品と撮影を楽しめるという企画も好評だったという。
「お客様にとっては作品やアーティストをより身近に感じられますし、SNSにアップするという楽しみも。その画像が拡散されることで、アーティストや作品を広めることにもつながります」。
「こういったアートの楽しみ方は邪道と思われるかもしれない」と朝倉も言うように、いずれもほかのギャラリーではあまり行われていないことだ。
“現代アートへの敷居を低くし、間口を広げる試み”は、ギャラリーの枠を飛び越えた場所でも行っている。今年は、横田が活動を広げる中でつながった高知県の老舗酒造やお寺で、若手現代アーティスト作品の展示即売イベントを開催。日本酒のパッケージラベルにアーティスト作品を登用するという企画も実現した。現在は、年始の初詣客に向けてアーティスト作品がデザインされたお守りを企画・制作中だという。
「お遍路でたまたまお寺を通りがかった方、日本酒を買いに来られた方、初詣に来られた方。皆さん、普段アートと接点のない方々が大半です。でも、ふとした機会にアートの世界に触れられる。そんな、気軽にアートを知るきっかけをつくっていきたい」と横田は話す。
“最高にイカすもの”を「ATE THAT」を舞台に
また最近は、希少なスニーカーやスタジオジブリ作品の原画などをオンライン上で取り扱う「ATE THAT」(エイト・ザット)との取り組みも実施した。「ATE THAT」のコンセプトは、“ジャンルにとらわれない、最高にイカすものを集めたデジタルプラットフォーム”。さまざまなジャンルに感度の高いユーザーが多いため、若手アーティストやその作品のショーケースとしても恰好の場といえる。
12月25日より、過去にATETHATで掲載したアーティストの中でも、人気の作品の再度特別に販売する。販売時に手に入れられなかった方に、ぜひ見てもらいたい。(ATE THAT https://atethat.jp/)
「A4」は、ATSUSHI MAEDA、森戸一恵、カメ子カメ男、マスダアキラなど注目の若手日本人アーティスト8名の作品を推薦。「ATE THAT」では、それらを週替わりで8週にわたって作品の説明と共に紹介した。販売形式は、ありがちなオークションや先着順ではなく、抽選という点もユニークだ。
「何週にもわたって、しかも何名ものアーティストと作品をご紹介いただくという機会はなかなかありません。週替わりで新しい作品が登場するという、ユーザーを飽きさせない仕組みも素晴らしい。アーティストにとっては、自身の作品をオンライン上で気軽に見てもらえますし、ファンづくりの場にもなります」(朝倉)。
「『ATE THAT』はまだ新しいプラットフォームですが、取り扱うアイテムはほかにはないような、スペシャル感のあるものばかり。アート好きだけでなく、幅広いジャンルにアンテナを張る方々が集まるという点は、“世に広くアートを届けたい”という我々の想いとも重なりました」(横田)。
今後も「A4」は、「ATE THAT」が提供するプラットフォームの強み、オフラインにはないメリットを活かして現代アートを発信していく予定だ。
「発掘と育成こそギャラリストの喜びです」
独特の世界観や異端さが、ときに大きなインパクトを与え、人々から絶大な評価を得る現代アートの世界。であるならば、その現代アートを広める手段・手法もまた、既存の枠にとらわれることはないのかもしれない。
アートを広めていく一方で、「A4」では若手アーティストの支援、サポートにも力を入れる。朝倉は「日本の若手アーティストの活動の場をもっと増やし、アジアや世界で活躍できるようにしっかりと支えていきたい」と話す。
これまで「A4」では約100名のアーティストをギャラリー展示やイベントで紹介してきた。アーティストを発掘する際に重視しているのは、「(年代を問わず)若手であること」、「アーティストのスタイルが確立されていること」だという。そして同じアジアでも台湾、中国、日本では人々が好むアートの傾向がそれぞれ異なるため、その点も意識している。
スタートして3年が経ち、ギャラリストとしての喜びも感じることができた。
「『A4』スタートの際、最初にお声がけしたアーティスト・カメ子カメ男さんは、みるみるうちに人気が出て、有名になりました。上へと駆け上がっていく様を間近で見させてもらったこと、彼のこれからのキャリアの大きな節目となるような場面に立ち会えたことは個人的にとても感慨深く、ギャラリーとして意義深いものがありました」。
今後は、日本の伝統文化や地方の活性化につながるような取り組みに活動を接続していきたいという。
「一見、アートと関わりのなさそうな日常の生活・消費シーンにどんどんアートの風を吹き込んでいけたら」(横田)。
あらゆる場所に導火線を仕掛け、アート業界に火をつけるような「A4」の取り組みは、これからも続いていく。
朝倉禅(あさくら・ぜん)◎1977年、香川県生まれ。16歳で渡英し、ロンドン芸術大学セントラル・セント・マーチンズで就学。2004年、中国・北京に「ASAKURA SALON BEIJING」設立。ヘアサロン事業のほかイベントプロデュース事業を手掛ける。その傍らでプロモーション会社「Reflections general office」も設立し、日本ブランドや商業施設のプロモーションに参画。2022年、アートギャラリー「Alternative Art Agency ASAKURA」(A4)を設立。
横田侑(よこた・ゆう)◎1984年生まれ静岡県生まれ。法政大学を卒業後、インキュベーション事業に従事。2008年オーストラリアへ単身移住し、グローバルな人脈を形成。帰国後、情報通信・暗号資産・ブロックチェーンビジネス領域でセールス、コンサルタントとしてキャリアを積む。現在は「A4」の統括として活動するほか、さまざまな企業・自治体と協業し地方創生事業にも携わる株式会社1004の代表も務める。