最新のハリス世論調査によれば、米国人は気まぐれなところがあり、たとえば自分の将来については楽観的だが、国の方向性については悲観的だ。一方で、米国人は伝統的に妥協できる生き物でもあり、危機の際には国を優先し、仕事中は政治よりも礼節を優先してきた。
しかし、政治の二極化が進み、イスラエルとハマスの戦争などの地政学的危機を受け、反対意見を持つ人々を悪者扱いする風潮が急速に広がる中、その伝統が変わりつつあるかもしれない。企業文化の守り手たちは、職場で「自分らしさ」を発揮することの意味を再考し、礼節をコミュニケーションの中核をなす価値観として職場に取り戻すために、より多くの時間と資源を投資する必要がありそうだ。
憂慮すべき具体的な兆候がある。アフリカ系米国人のジョージ・フロイドが警察に拘束された際に死亡した事件によって、黒人に対する「制度化された人種差別」が浮き彫りになったように、中東情勢を通じて反ユダヤ主義とイスラム嫌悪が白日の下にさらされている。
反ユダヤ主義に関しては、大学のキャンパスで起こっている出来事と大学当局のDEI政策の偽善性をめぐる疑惑に注目が集まっているが、職場における政治と差別についても懸念が高まっている。TikTok(ティックトック)運営会社のユダヤ人従業員は、社内で反ユダヤ主義的なコメントが飛び交い、TikTok上に存在するユダヤ人への憎悪をあおるコンテンツについての対処もなされていないことへの不満を表明している。他方、全米最大のイスラム系人権団体「米イスラム関係評議会(CAIR)」は、職場で反パレスチナ的な言説が増加していると指摘している。
ビジネスコンサルティング企業Modern Executive Solutionsのシニアパートナーであるビル・シャニンガーは、米国企業において「セグリゲーション(すみわけ)」のリスクが高まっているとみている。人々が自らの選択に基づいて特定の地域や友人関係に根差したグループに集まるのと同様に、自分と同じ政治的信条を持つ人々とのみ働くことを選ぶ人が増える可能性があるという。
自分の信念を決して曲げず、同僚から反感を買っている従業員がいる場合、本能的に「すみわけ」を選ぼうとするのは理解できる。ピュー研究所の最近の調査によると、共和党支持者の中でも、ドナルド・トランプ前米大統領の支持者は、フロリダ州知事のロン・デサンティスや元国連大使のニッキー・ヘイリーを支持する人と比べ、自分の信念を曲げない傾向が強い。
これは結果的に、多様性の低下につながりかねない。多様性が損なわれると、企業収益に悪影響が出ることが多くの研究で示されているほか、生産性はもとより人材の採用・定着にも弊害が生じる。もちろん、敵対的な職場環境を作り出すような物言いや振る舞いを許せば、訴訟に発展する恐れもある。
だが、職場において礼節と包摂を優先すべき論拠として最も説得力があるのは、道徳的な観点に基づくものだ。すなわち、多様な消費者へのサービス提供を目指す企業は、従業員の多様性を受け入れ、会社の使命にも多様性を包含しなければならない。2024年は、不穏な風潮に対処するためのビジネスケースを理解している企業の経営幹部や取締役が、こうした議論を繰り広げる1年となるに違いない。
(forbes.com 原文)