日々の習慣が未来を変える
──そのためにはどうすべきでしょうか?グラットン:どんなことでもそうですが、小さなことから始めて、少しずつ積み上げていくしかないと思います。それでもいったん始めれば、もっと学ぶようになるし、上達もする。ChatGPTは年齢に関係なく、誰でも使えます。大事なのは、世界とどうかかわっていくかです。まずは、世界で何が起きているのかを知り、それを子供たちに話してあげてください。
──テクノロジーは年配の人たちにとっても大きな力になると私は考えていますが、この点についてはどうお考えでしょうか。
グラットン:いま、頭の中で2種類の考えが浮かびました。一方では、高齢者はテクノロジーを好まないという“神話”があることです。でも、テクノロジーは何歳になっても楽しめると思います。脳がテクノロジーに適応できなくなるという証拠はありません。他方では、「私にはできない」というふうに考える人がいるのも確かです。問題は、人はどうすれば新しいことに挑戦するようになるのか、ということでしょうね。
──日本には、ドラスティックな変化を求めるよりも、業務を継続的に効率化することで生産性や品質の向上を目指す「カイゼン」という考え方があります。
グラットン:素晴らしいと思います。世界中が、カイゼンを大好きですからね。小さな変化でも素晴らしい。実際、大きな変化を起こすのは簡単ではありません。私自身の人生を振り返ってみても、大きな変化を起こせたことはほとんどありません。人に「大きな変化を起こせ」というのは、多くを求めすぎなのかもしれなません。ほとんどの人は、物事を少しずつ変えていこうとするものです。何かを試してみるが、うまくいかない。そこで別の方法を試してみて、気に入ったものを取り入れる──。試行錯誤をしていくうちに、道が開けていくのです。
私が最近、よく考えることの一つに「友情」があります。友情は、精神衛生上はもちろん、仕事上の人間関係という点でも極めて重要です。友情について研究している友人に話を聞いたところ、友情も少しずつ築いていくものだそうです。確かに、人に突然「私の親友になってほしい」とは言わないですよね。
一緒に時間を過ごし、コーヒーを飲んだり、話をしたりするうちに友情は育まれていくものです。だから、少しずつでいいのです。ただ、ここでいう「少しずつ」というのは、同じことを繰り返すのとは違います。常に、何か違うことをするよう心がけることです。習慣を通じて起こす日々の小さな変化が、やがて大きな変化をもたらすでしょう。それが、あなたを違う道へと導いてくれるはずです。
リンダ・グラットン◎ロンドン・ビジネス・スクール経営学教授。人材論、組織論の世界的権威。世界経済フォーラムの「新しい教育と仕事のアジェンダに関する評議会」責任者。世界で最も権威ある経営思想家ランキングであるThinkers50のトップ15にランクイン。「人生100年時代」の提唱者として2018年に「人生100年時代構想会議」のメンバーに任命された。『LIFE SHIFT』(東洋経済新報社刊)など著書多数。
岡本純子◎グローコム代表取締役社長。米MIT比較メディア学元客員研究員。読売新聞社経済部記者を経て、現在はエグゼクティブ向けコミュニケーションコーチ、企業PRコンサルタント、ジャーナリストとして活動している。『世界最高の話し方』(東洋経済新報社刊)など著書多数。