総人口7億人の巨大市場ASEAN。ユニコーン企業21社を数え、BtoC領域を中心に、スタートアップが経済成長をけん引している。
日本の若き起業家たちにとってのグローバル展開といえば、まずはASEAN。そんな時代がやってきた。新たな機会に攻め込む、起業家たちの戦略と展望に迫る。
「今はタイ、ベトナム、フィリピン。次はインドネシアです」
Sagri坪井俊輔(29歳)にとって、ASEANは既に主戦場だ。同社は、衛星データとAIを活用した土壌分析サービスで、農業と気候変動の課題に挑むアグリテック・スタートアップ。2023年1月には、ASEAN事業の拠点となるシンガポール法人を設立している。
「タイのピッチイベントに参加すると、『ようやく会えて、嬉しいよ』と現地の起業家から声をかけられました。ASEANの農業を変える存在として、Sagriへの期待が広まっているのを感じています」
そうした機運を象徴する事業提携が23年11月、発表された。Sagriは、タイのCPグループ傘下のBKP社と組み、衛生データを活用した土壌分析手法の実証実験を開始する。CPグループといえば、農業・食料品の分野を中核事業とする、タイが誇る最大手財閥だ。タイ東北部のとうもろこし農地を対象とした実証実験を行い、その先には農地由来のカーボンクレジット創出事業の展開も目論んでいる。Sagriへは、日本政府からの期待も大きい。バンコクでの提携発表イベントには、CPグループCEOスパチャイ・チャラワノンと共に、西村経済産業大臣(当時)も立ち会った。
今年23年は、日本とASEANの友好協力50周年。ASEAN経済は、Grab、Gojek等のユニコーン、デカコーンの台頭により、急成長。スタートアップけん引型へと一変した。日本にとってのASEAN各国も、ODA(政府開発援助)の支援対象から、イノベーションを起こすパートナーへとシフトしている。コンシューマー向けビジネスで伸びゆく市場は、精鋭が集う最先端のシリコンバレーより、日本のスタートアップがつかめる事業機会にあふれる。経済産業省大臣官房参事で、現在ジェトロ・シンガポール事務所でエグゼクティブ・ディレクターを務める石川浩はこう指摘する。
「BtoBのソフトウェア、食、娯楽など、ASEAN各国で、日本のスタートアップが入り込むスペースは、枚挙にいとまがありません。もし、日本がその機会を拾わなければ、中国や米国のものとなっていくでしょう」(石川)
日本政府も、日本のスタートアップと各国財閥との関係構築を積極支援する。23年12月、経産省などが主催となり、日本とASEANの若手ビジネスリーダーが集うサミットが軽井沢で行われた。インドネシア発のユニコーン企業にして、21年にGojekと経営統合したTokopedia。その創業者ウィリアム・タヌウィジャヤらASEANのビジネスリーダーと共に、CP(タイ)、AYALA(フィリピン)、Kuok(マレーシア)など財閥ファミリーの次世代リーダーたちが多数来日した。
「財閥ファミリーは、日本企業との連携で成長したため、日本への信頼は厚い。交渉のドアは既に開いている。後は、掴みにいくだけ。今こそ、ラストチャンスです」(石川)